ベトナム、インド、台湾、韓国が堅調

今後のアジア株は、中国景気への懸念が続く中では、中長期的な成長力を見込めるインド、ベトナムが選好されると同時に、今秋以降に想定される中国の在庫調整終了とテクノロジーセクターの循環的回復は韓国、台湾、香港・中国への好影響が期待できよう。本稿ではアジア株の現状と見通しを概説する。

年初来(8月10日時点)の世界主要株式市場の騰落率は、欧米、日本などの主要国やアジア(日本を除く)のパフォーマンスが好調だった。アジア株では、ベトナム、台湾、韓国、インドが好調だった一方、香港、フィリピン、インドネシアのパフォーマンスは相対的に劣後した。米国が利上げ終了局面に近づく中、米国株の上昇が相場全体を下支えし、半導体市況の底入れ観測は台湾や韓国の追い風になった。足元では、米長期金利が再上昇し、中国景気に対する懸念によるリスク回避の流れが強まる中でも、ベトナム、インドネシアやインドが底堅く推移している。中国本土や香港(以下、中国株)は中国景気の減速懸念が相場を下押しする一方、中国政府の政策期待が下支えした。

中国経済はゼロコロナ政策解除後の回復の勢いが急速に失われ、不動産市場は低調である。また、これまで中国経済をけん引してきた輸出は、7月は前年同月比14.5%減と、コロナ禍初期の2020年2 月( 同40.6%減)以来の減少幅となった。コロナ特需の剥落や世界的な財の需要の減少に加え、米中対立が全体を下押ししていよう。

米国のバイデン政権は対中輸出規制を安全保障上の脅威となる先端分野から拡大することを検討し、中国も半導体の原材料として使われる鉱物資源の輸出管理を厳格化するなど、対立に緩和の糸口は見えない。

外国企業による中国への対内直接投資は、4~6月期は前年同期比87%減の49億ドルと、過去最大の減少幅となった。米中対立が企業の投資計画に影響を与え、友好国と供給網を構築する「フレンド・ショアリング」の動きが進んでいる。

このような中国と主要国とのデカップリング(経済分断)に向けた動きは中長期的な成長率の低下懸念につながり中国株停滞の一因となっている。

有望テーマは成長力と循環的回復

世界の供給網の変化は今後3~5年で加速し、インドと東南アジアが最も恩恵を受ける可能性が高いと野村では見ている。

IMF(国際通貨基金)が7月25日に発表した経済成長率見通しでは、23年の先進国・地域を1.5%と前回(4月時点)の1.3%から上方修正したものの、24年は1.4%と、23年から鈍化すると予想している。他方、23年の新興国は4.0%と前回から0.1%ポイント上方修正し、アジア新興国を5.3%と前回から横這いとした。インドについては、好調な国内投資を主因に23年度(23年4月~24年3月)成長率見通しを前回の5.9%から6.1%に上方修正した。

米国など先進国ではインフレ圧力の緩和、堅調な労働市場や金融不安の緩和が成長率見通しの上方修正につながっているが、これまでの利上げによって消費の伸びは減速が見込まれ、24年にかけて低成長に陥ることが予想される。

一方、インドや東南アジアは、人口増加による消費地としての魅力、低廉な賃金、高い労働力の質、政府により進められるインフラなどの環境整備、中国に隣接する地理的優位性を理由にテクノロジーを中心に生産拠点を中国から移転する動きが今後も続こう。対内直接投資と外需が雇用の増加と賃金上昇につながり、内需を後押しする好循環を生み、高成長が続こう。先進国の低成長が続くことが見込まれる中、中長期的な成長力が期待できるインドやベトナムなどのアジア株に投資家の目が向こう。

台湾や韓国については、半導体市況の底入れ期待が支援材料になるが、FRB(米連邦準備理事会)がタカ派的(金融引き締め重視)な姿勢を強め米長期金利が上昇する場合には株価は一時的に調整を強いられる可能性もある。

中国株については、循環的な景気回復が見えてくれば、バリュエーション(企業価値評価)の割安感は維持されており、底堅さを増そう。企業部門の在庫圧縮は進展しており、調整が一巡するのは9~10月頃になる見通しである。7月下旬に開催された共産党中央政治局会議では、国内の需要不足、特に不動産の需要テコ入れ、地方政府の隠れ債務リスクの軽減、企業の経営難に対応する方針を表明した。大都市の不動産市場を下支えする効果が見込まれるものの、リスクの抑制に重きがおかれ景気浮揚効果は限定になると見ている。それでも不動産市場の持ち直しと在庫調整の一巡が実現すれば、23年後半には景気に明るさが見えよう。

(野村證券投資情報部 坪川 一浩)

※野村週報 2023年8月21日号「焦点」より

※掲載している画像はイメージです。

【FINTOS!編集部発行】野村オリジナル記事配信スケジュールはこちら

ご投資にあたっての注意点