投資情報部主催の四季報の会の運営メンバー(左下が代表の大坂隼矢氏)

野村證券では社内企画として、投資情報部のリサーチャーらがパートナー(個人投資家向けの営業担当者)を対象にした「四季報の会」を実施している。年4回発行される『会社四季報』(東洋経済新報社刊)をもとに、1000番台から順番に注目の銘柄や業界の動向を解説する。四季報の会代表・大坂隼矢ストラテジストはこの会の狙いを、「若手のパートナーに個別株に詳しくなってもらいたいという思いで続けている」と語る。6月末に開催された2023年夏号の四季報の会に参加し、その様子の一部をお伝えする。(第1回「野村證券、『会社四季報』全ページ読破で鍛える相場観」はこちら、第2回「野村證券『四季報の会』代表に聞く、夏号の注目点は?」はこちら

【1000~2000番台】「PBR1倍割れを改善」各社の取り組みに差

1000番台には水産・農林業、2000番台には食品製造業の銘柄が並んでいます。これらの業種の中には鶏卵の価格高騰により大きな影響を受けた銘柄が多く見られました。北海道を地盤とする採卵養鶏場大手のホクリョウ(1384)では、鳥インフルエンザの影響によりニワトリ70万羽が殺処分され、北海道内での供給がひっ迫し売価が高騰したとの記載があります。鶏卵価格の高騰は、山崎製パン(2212)やモロゾフ(2217)など、食品メーカーのコスト高につながっていることがわかります。一方、米菓国内3位の岩塚製菓(2221)では、卵不足により代替需要で米菓数量が増加したというコメントもあり、恩恵を受けた銘柄もあるようです。6月の最終週ごろから鶏卵価格は落ち着きを取り戻していますが、次の2023年秋号ではこれらの銘柄に変化が見られるか注目です。その他、2000番台の食品メーカーでは値上げによる収益拡大といったコメントが多く見られ、今のところ消費者に値上げが受け入れられている姿が見受けられました。

2023年3月、東京証券取引所はPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業に対し、改善策を開示・実行するよう要請しています。この要請に対応するため、多くの企業が改善策を講じていることが四季報を読むとよくわかります。世紀東急工業(1898)は配当性向を30%から100%に引き上げ、DOE(株主資本配当率)8%を目標に定めました。また、大和ハウス工業(1925)は自己株取得の発表が好感され、株価が上昇しています。

ただし、東京証券取引所が求めるのは、増配や自己株取得だけで資本効率を高めるということではなく、収益性の高い企業へと成長するための施策です。例えば、積水ハウス(1928)は連続増配や自己株取得により株主還元を充実させつつ、M&Aによる成長戦略を進めていく方針です。増配や自己株取得も資本効率を高める大きな要素ですが、成長戦略に注目しながら銘柄を見ていくことも重要なポイントと言えるでしょう。

【3000~4000番台】値上げや生産性向上の施策で業績回復へ

3000番台では外食産業が好調でした。人件費や光熱費の上昇、原材料の供給ひっ迫などは依然として業績を下押ししていますが、外出規制の緩和に伴って客足が大きく増えていることや、各企業が値上げや生産性向上などの施策を講じたことで、業績回復が本格化しているような印象を受けました。

回転寿司店を展開する銚子丸(3075)では店舗数が純増3程度(前期は純増1)、既存店でも値上げと改装が業績回復を後押ししています。また、コーヒーショップの「ドトール」などを傘下に持つドトール・日レスホールディングス(3087)でも店舗数は純増65(前期純減30)と大幅な増加に転じています。

外出規制の緩和やインバウンド需要の回復は、4000番台のレジャー関連の銘柄にも好影響を与えています。東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド(4661)はディズニーランド開業40周年イベントも重なり、2023年前半から客足が好調のようです。さらに10月には大人の1日券が1万円超えになるという報道を見聞きした人も多いと思います。その他、アミューズメント施設を運営するラウンドワン(4680)や会員制リゾートホテルを運営するリゾートトラスト(4681)など、レジャー各社の業績は好調のようです。

【5000~7000番台】銘柄を見比べ、違いを考える

四季報を読んで、銘柄を比較してみることも大切です。タイヤメーカーの横浜ゴム(5101)とブリヂストン(5108)を比較してみましょう。

横浜ゴムの見出しには「好反発」とあります。主要販売先に記載のあるトヨタ自動車(7203)の販売好調や値上げが好業績を支えているようです。財務諸表では、ブリヂストンの見出しも「快走」となっています。両銘柄のROEを比較してみましょう。横浜ゴムのROE(自己資本利益率)は直近8.1%、予想9.1%、ブリヂストンが直近10.7%、予想11.1%となっており、ROEに大きな差は見られません。一方、PBRは横浜ゴムが0.78倍、ブリヂストンが1.3倍と大きな差があります。この違いを四季報だけで読み解くことは難しいかもしれませんが、四季報を読んで疑問を持ち、様々なデータに当たりながら考えることにもぜひチャレンジしてほしいです。

5000番台から7000番台を読み進めていくと、自動車関連は堅調で、見通しが良い企業が多く見られます。一方で、半導体関連の企業は強弱が入り混じっている印象です。半導体関連企業向けの純水製造装置に強みがあるオルガノ(6368)や、総合水処理施設の最大手である栗田工業(6370)など、水処理関連の銘柄は前号から引き続き堅調なのがわかります。

半導体関連で前号から業績が悪化している銘柄も散見されましたが、一見業績が厳しそうな銘柄でも株価が上昇しているケースもあります。これは、半導体市場の中長期的な成長への期待が高いことが要因と考えられます。足元の業績が厳しい銘柄でも、設備投資を積極的に行っている銘柄が多いことがその証拠と言えるかもしれません。

【8000~9000番台】電気料金の値上げ、どこまで影響するか

8000番台には商社などの卸売業や百貨店などの小売業、金融業、不動産業という業種の銘柄が続いています。足元では五大商社の伊藤忠商事(8001)・丸紅(8002)・三井物産(8031)・住友商事(8053)・三菱商事(8058)が上場来高値を更新しています。「連続増配」や「株主還元」といった資本政策に関するコメントも多く見られました。

9000番台は倉庫・運輸や情報・通信、電気・ガスなどとインフラに関わる業種が中心になっています。特にこのご時世、多くの人が気になるのは電力でしょう。電力大手7社、東京電力ホールディングス(9501)・中国電力(9504)・北陸電力(9505)・東北電力(9506)・四国電力(9507)・北海道電力(9509)・沖縄電力(9511)は、6月より家庭向けの規制料金を平均15%(東京電力)から平均43%(沖縄電力)値上げしました。

電気料金の値上げは経済全体に大きな影響を及ぼし、他業種でもインフレが加速する可能性があります。特に電力をよく使う企業では、事業や業績に大きな影響を与えるでしょう。電気代の高騰というコスト高に対して、企業がどのように対応していくのか、次号の四季報で確認したいと思います。

(注1)画像はイメージ。
(注2)本記事は、株価へのインプリケーションや投資判断、推奨を含むものではございません。

ご投資にあたっての注意点