金融市場は株安・円高で反応、銀行など金融株が急騰

日本銀行は7月27-28日に金融政策決定会合を開催し、主要な金融政策を据え置いた上で、YCC(長短金利操作)の運用を柔軟化することを決定しました。YCC政策に関しては、長期金利の対象は10年国債利回りで据え置き、誘導目標も0%程度で据え置いた上で、従来「±0.5%程度」としてきた許容変動幅を柔軟化し、指し値オペの利回りを1.0%に引き上げました。YCCの運用柔軟化の目的として日銀は、「上下双方向のリスクに機動的に対応していくことで、この枠組みによる金融緩和の持続性を高める」ことにあると説明しています。

同時に公表された展望レポートのコア消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の見通しを見ると、2023年度は実勢にサヤ寄せする形で前年度比+2.5%と、4月の同+1.8%から上方修正されました。ただし、24年度は同+1.9%(4月同+2.0%)と小幅下方修正されたたうえ、25年度は同+1.6%と据え置かれ、「物価安定の目標」が持続的・安定的に達成可能であるとの見通しは示されませんでした。

これまで日本の長期金利に対しては、「日銀の政策修正期待」と、「米国を中心とした先進国の長期金利上昇」の2つの上昇圧力が作用してきました。今回のYCCの運用柔軟化は、「粘り強く金融緩和を継続する」日銀の姿勢を示すものであると解釈できることから、日銀に対する早期政策修正期待に基づいた長期金利上昇圧力は低下することが予想されます。また、米国の利上げも最終盤にあり、米国発の長期金利上昇圧力も早晩ピークアウトするとの見方が優勢です。結果、長期金利に上昇圧力が掛かる中で金利の上限を制限することで生じてきた「日銀による極端な国債買入」や「国債市場のイールドカーブの歪み」といった副作用は生じ難くなったと考えられます。同時に、米国の金利上昇時に日米金利差が拡大することで生じていた円安圧力も緩和することも期待できそうです。

金融市場の反応ですが、後場の株式市場の寄り付きとほぼ同時に、日銀はYCC運用の柔軟化を決定しました。発表直後こそ株式市場は下げ渋る場面も見られましたが、徐々に下げ幅を拡大する展開となりました。業種別では、昨年12月の「サプライズ政策修正」時と同様に、銀行や保険など金融株が上げ幅を拡大させる一方で、大半の銘柄が急落し、特に不動産や輸出業種の下げ幅が大きくなりました。一方でドル円市場は発表直後こそ140円を挟んでの乱高下となりましたが、徐々に円高が進行しました(いずれも28日13:30時点)。

植田総裁の記者会見でも、YCC運用柔軟化の目的や今後の政策運営方針について改めて説明があると見られます。植田総裁のコメントを踏まえながら、改めて市場は今回の変更を消化することになりそうです。

(野村證券投資情報部 尾畑 秀一)

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