経済活動の正常化に伴い、インバウンド(訪日外国人)消費の回復が続いている。訪日外国人消費動向調査によれば、2023年4~6月期のインバウンド消費額は1兆2,052億円と、19年同期の95%まで回復した。同期間の訪日外客数は592.1万人と、19年同期の69%の水準にあたる。

経済全体の消費額の回復が人数以上に速く進んでいる背景には、1人当たり消費額の増加がある。4~6月期の訪日外国人1人当たり消費額は20.5万円と、19年同期から約3割増加している。宿泊費や外食費等の高騰の影響もあるものの、3割の増加は物価上昇だけでは説明できない。訪日観光客はコロナ前より実質ベースでお金を使うようになってきたと言える。

単価上昇の背景には、一時的な要因と恒久的な要因の両方があると考えられる。一時的な要因としては、コロナ禍からの繰越需要があるだろう。約3年ぶりに日本への旅行が解禁されたことで、より長く日本に滞在したり、より高価な商品・サービスを選択したりする消費者が一時的に増えている可能性がある。

恒久的な要因としては、主要な訪日国の購買力の上昇がある。米国やユーロ圏等の先進国の平均賃金は、19年から1割以上上昇した。昨今の円安も相まって、日本への旅行が割安になったことが影響しているだろう。また、コロナ禍でリモートワーク等の働き方の多様化が進み、滞在期間を延ばしやすくなったことも、消費額の増加に影響している可能性がある。

こうした動きは、宿泊業の人手不足やオーバーツーリズム(観光客の過度な増加)の問題に直面しつつある日本にとって光明である。1人当たりの消費額を増やすため、外国人の購買力増加を取り込む形での観光サービスの高付加価値化が期待される。

(野村證券経済調査部 野﨑 宇一朗)

※野村週報 2023年8月7日号「経済データを読む」より

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