順調に増やした大切な資産、その資産が相続の際に家族のもめごととなってしまっては、心残りとなります。また、相続人にとっては相続の手続き・税の申告は大仕事です。ましてや、「争族」となってしまった場合には、費用も時間もかかります。残された家族が争族争いに巻き込まれないために、事前に対策できることがないか大手町トラストの税理士に伺いました。

はじめに

人が亡くなると、亡くなった方の財産上の権利義務をその配偶者や子などが承継する「相続」手続きがあります。 昨今は、相続人間でこの遺産の分割を巡って争う事例が増加しており、令和2年の全国の家庭裁判所の遺産分割に関する調停・審判の新規受付件数は、14,617件で、20年前と比較するとおよそ1.3倍となっています。

令和2年の国税庁の調査によると、被相続人一人当たりの遺産額の全国平均は1億3,619万円、相続税額は1,737万円でした。

令和2年の家庭裁判所の遺産分割に関するデータを見ると、調停・審判で扱う遺産分割の遺産額は5,000万円以下が最多となっています。遺産分割におけるトラブルは誰にでも起こりうる問題ともいえます。

一方、遺産額と審理期間で見ると、遺産額が多いほど審理期間もかかる傾向にあります。

今回は、この遺産分割で問題となりやすい典型的な状況とその対策について、説明します。

遺産分割の問題とその対策

相続が開始すると、故人の財産は、ひとまず相続人全員の共有財産となり、その後、相続人全員で具体的にその財産を分けることになりますが、次のような状況にあると、その遺産分割が困難になる場合があります。

(1) 財産が相続人間で均等に分割しにくいもの(不動産など)で構成されている場合

≪問題点≫ 主な財産が自宅

財産が自宅のみで、同居の子(相続開始後も継続して居住を希望)と別居の子とで分割の意向が異なる場合。

解決策 ≫ 代償分割(※)により、自宅を取得した同居の子を死亡保険金の受取人とした生命保険を活用し、別居の子への代償金に充てる

(※)代償分割とは、現物を取得した相続人が他の相続人に金銭(代償金)を支払う方法。

≪問題点≫ 財産に不動産が多い(現金があまりない)

  • 不動産の時価は物件によって異なるため、現物では均等に分けることができない。
  • 不動産は修繕・管理が必要で、コストもかかるため、取得を望まない相続人もいる。

解決策 ≫ 財産の構成を早めに再考し、一部不動産を売却する等して現金化しておく

(2) 特定の相続人に生前贈与をした又は特定の相続人が特別の貢献をした場合

≪問題点≫ 

  • 特定の相続人に生前贈与をしていた場合、他の相続人が不公平感を抱き、対立する。
  • 故人の家業を手伝っていた又は療養看護を行っていた相続人が寄与分(※)を主張する。

(※)寄与分とは、被相続人に対し、無償もしくはそれに近い状態で事業の手伝いや療養介護等の行いに対し、遺産分割で財産を相続できる制度。

解決策 遺言書を作成しておく

(3) 子どものいない夫婦又は家族関係が複雑な場合

≪問題点≫

  • 子どものいない夫婦のどちらかが亡くなった場合、配偶者に加えて故人の両親も相続人になる。直系尊属がすべていなければ配偶者と故人の兄弟姉妹が相続人になる。
  • 養子がいる、離婚したもとの配偶者との間に子どもがいる、認知した婚外子がいる。

相続人同士が疎遠の場合や関係が良好でない場合、トラブルに発展することもあります。

解決策 誰が相続人になるか確認した上で、遺言書を作成しておく

遺言書の作成

遺言とは、自分が死亡したときに財産をどのように分配するか等について、自己の最終意思を明らかにするものです。遺言がある場合には、原則として、遺言者の意思に従った遺産の分配がされるので、遺産の分割を巡る争いを事前に防止することができます。

遺言の方式には、主に、自書能力が備わっていればいつでも作成でき、手軽かつ自由度の高い自筆証書遺言と、公証人の関与の下で、2人以上の証人が立ち会うなど厳格な方式に従って作成され、公証人がその原本を厳重に保管する公正証書遺言があります。自筆証書遺言は、法務局における保管制度があり、民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するか否か外形的なチェックは受けられますが、内容の有効性を保証するものではありません。各方式の長所・短所を理解して選択する必要があります。

遺産分割が成立しない場合の相続税申告

相続税の申告期限までに遺産分割が成立しない場合でも申告期限までに、「法定相続人が法定相続分どおりに財産を取得したものとして」相続開始後10ヶ月以内に相続税の申告・納付を行わなければなりません。

遺産分割が成立した段階で、その分割に基づき、再度相続人ごとの相続税を計算し、納めた税金が少ないときは修正申告で不足分を追加納税します。税金を納めすぎている場合は、更正の請求をすることにより還付を受けられます。

むすびに

家族の在り方や価値観が多様化する現代において、「相続」が「争族」にならないためにも、残される家族への最後のメッセージとして遺言が果たす役割は重要になってきています。また、遺言書がある場合にも、相続人間の同意の下、遺言と異なった遺産分割も可能です。

※遺言書の作成については、「【投資と税金】紛糾する遺産分割、対策には遺言書?」をご覧ください

本解説について:令和5年4月に施行されている法律等に基づき作成しております。情報提供を唯一の目的としたもので、投資勧誘を目的として作成したものではありません。この資料は信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、野村證券は、その正確性および完全性に関して責任を負うものではありません。個別の税務の詳細については、所轄税務署や税理士等にご相談ください。

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