カンザスシティ連銀主催の年次国際経済シンポジウム、ジャクソンホール会議が8月24日~26日に開催されました。FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長の講演が最大の注目点でしたが、現下の金融政策を概ね確認したことでほぼ無風となりました。

その中でも、パウエル議長は以下の点に言及しています。①現在の政策金利は中立金利を十分上回っており引き締め的である、②現在の政策を維持すれば景気やインフレは減速していく見通しである、③予想に反して堅調な雇用情勢が続けば追加利上げの必要性が高まる。特に③に関しては、先行きのインフレ再加速リスクを視野に入れた「フォワード・ルッキング」な姿勢を示していると言えます。

振り返ってみると、昨年のジャクソンホール会議においてパウエル議長は、当初インフレ加速が一時的としていた判断を改め、長期にわたる可能性を認めました。「金融政策と物価安定」というテーマの中で、「物価安定を取り戻すためには、しばらくの間、制約的な政策スタンスを維持する必要がある」と述べ、今後明らかとなるデータを重視する姿勢を鮮明化しました。それ以降、FOMC(米連邦公開市場委員会)は実際のインフレ率を重視してきましたが、今後はインフレだけでなくGDPや雇用といった指標も重視することを示唆しています。

一方、7月のFOMC後の記者会見においてパウエル議長は「スタッフはもはやリセッションを予想していない」と述べています。とすれば、利下げのタイミングを考えた場合、ややタイムラグ(時間差)を想定した方が良いかもしれません。

現下の、インフレを加速も減速もさせない「中立的政策金利」はどの程度の水準が適切かについては議論が成熟していないため、不透明感が強い状況です。フォワード・ルッキング政策へ移行する中で、今後議論が活性化する可能性があるので注目です。

その議論に影響を強く及ぼすと思われるポイントが「米国10年国債利回り」の水準でしょう。今回の高インフレ局面での米国10年国債利回りのピークは4.3%台です。FRBは従来、「証券保有残高効果は大きい」との見解を示しています。FRBスタッフの分析では、QE(量的緩和)第1弾~第3弾によるタームプレミアム(期間が長めの債券を保有する場合、価格変動リスクや流動性リスクが高まる分だけ、投資家が求める上乗せ金利)抑制効果が概ね1.10%ポイントと指摘されています(注)。  

米国10年国債利回りが5%以上へ上昇していた場合、世界の資産価格は現在と違った、更に厳しい状況になっていたことは想像に難くないでしょう。それほどQE効果は大きかったと言えます。長期金利は潜在成長力、中央銀行の金融政策に対する信頼度、中長期的な期待インフレ率、不透明感に伴うリスク要因など様々な要素を含みます。一方で、近年はQEという人為的な金利抑制効果もありますので、総合的に評価する必要があります。米国の長期金利は先行性、グローバルな資産価格評価の基軸という機能もありますので、引き続き長期金利の居所を見極めるステップがファースト、と言えそうです。

(注)FRB「Conducting Monetary Policy with a Large Balance Sheet」(2015年2月27日)

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