1分でわかる今週の米国株

先週は、8月29日(火)に発表されたJOLTS求人件数、そして9月1日(金)に発表された8月雇用統計がいずれもインフレの鈍化を示唆する内容であったと市場に受け止められました。2023年中の追加利上げ停止期待が高まったことで、米国株主要3指数は先週を通して上昇しました。

今週のPoint1. 雇用統計を受けたFRB高官コメントに注目

8月雇用統計で、非農業部門雇用者数(事業所統計)は前月比+18.7万人増となり、市場予想(同+17万人)を上回りました。一方で、6月分と7月分の雇用者数が正味で11万人減と大きく下方修正された結果、3ヵ月移動平均でみた雇用者数の増加ペースは同+15万人増に低下し、コロナ禍前の増加ペースを下回りました。平均時給や失業率などのデータも雇用環境の緩和を示すものでした。

今週は、FOMC(米連邦公開市場委員会)各委員の雇用統計の結果に対する評価が注目されます。特に、7日(木)に予定されるウィリアムス・NY連銀総裁、6日(水)・7日(木)に予定されるローガン・ダラス連銀総裁の発言には注目が集まります。ウィリアムス氏はFOMCの中心メンバーであり、8月7日のインタビューでもはや追加利上げは不要との見方を示し、利下げについてもインフレ率の低下次第で許容する姿勢を示しています。一方、ローガン氏は全体に先駆けて会合おきの利上げを提唱し、実際の政策もその通りとなった経緯があり、雇用統計を受けて追加利上げ向けてどの程度積極的な姿勢を維持しているのかに注目が集まります。

今週のPoint2. 6日(水)のISMサービス業景気指数

6日(水)には、8月ISMサービス業景気指数が発表されます。市場では52.4(7月同52.7)と、小幅低下するものの、依然として底堅さを示唆する水準で推移することが予想されています。

今週のPoint3.ゼットスケーラーなど5-7月期決算発表が最終盤

今週で5-7月期決算発表がほぼ終了し、来週からは6-8月期決算がスタートします。今週は、クラウドをベースとしたネットワーク・セキュリティのゼットスケーラーが5日(火)に、電子署名のドキュサインが7日(木)に予定されるなど、市場の注目を集めるソフトウェア企業の決算が続きます。

(ここまで、「1分で読める今週の米国株」)

もっと知りたい!経済指標&金融政策

雇用統計、金融政策への影響は

全全体として、今回の雇用統計はFOMCにとって政策金利据え置きを後押しする要因になったと考えられます。

ただし、FRBは短期的に、タカ派(インフレ警戒)寄りの姿勢を維持し、追加利上げの可能性を残すと考えられます。各物価指標は減速傾向ですが、スーパーコアPCE(個人消費支出)デフレーター(食品・エネルギーと家賃を除いたPCEデフレーター)は急反発していることから、インフレ再加速へは強い警戒を続けることになるでしょう。FRBがこれ以上の利上げは必要ないと確信できるようになるためには、より多くの証拠を確認する必要があるとの見解を示すと想定されます。

野村では、19日(火)-20日(水)に開催される9月FOMCで示されるドット・チャート(FOMC参加者の政策金利見通し)が中央値でみて、2023年内にもう一度の利上げとの見通しが維持された上で、2024~2025年の予想中央値は上昇し、その間の利下げペースが6月FOMCの見通しより遅くなると予想しています。

もっと知りたい!決算発表

5-7月期決算ではパロアルト・ネットワークスやクラウドストライク・ホールディングスなど、セキュリティ・ソフトウェア企業の好決算が市場の注目を集めました。今週も5日(火)に、ネットワークセキュリティ大手のゼットスケーラーが決算発表を予定しています。

ゼットスケーラーとは

セキュリティのソフトウェアは、ユーザーやIDを管理するIAM(オクタなど)、端末を監視するEDR(クラウドストライク・ホールディングスなど)と様々な技術分野がありますが、ゼットスケーラーはセキュア・ウェブ・ゲートウェイなどの技術を用いて企業の情報全体を守るネットワークセキュリティの大手です。競合には、パロアルト・ネットワークスやサイバーアーク・ソフトウェアが挙げられます。競合は既に決算発表を終えており、各社とも一株当たり利益と売上高が市場予想を上回る好決算でした。

2-4月期決算振り返り

ゼットスケーラーの2-4月期決算は一株当たり利益、売上高ともに市場予想を上回り、売上高と利益の通期ガイダンスが引き上げられました。景気の影響は前四半期とほぼ変わらず、経営陣によると成約率は高まりました。ここ数四半期に見られた成約前の精査強化の動きや営業サイクルの長期化を受けて、営業方法を見直したことが奏功したと説明されました。

5-7月期決算に向けて

4-6月期決算を含めたここまでのところ、セキュリティ・ソフトウェア各社の実績は軒並み堅調です。ただ株価の推移には強弱があり、ガイダンスが市場予想を上回ったか/下回ったかの影響が大きいと推察されます。ゼットスケーラーは7月期決算企業であるため、今週の決算発表で2024年7月期通期のガイダンスを示すと見られ、実績とともに会社見通しに注目が集まると見られます。

最後に、セキュリティ各社の今年のパフォーマンスを振り返っておきましょう。

サイバーセキュリティ銘柄の株価上昇率(2022年末比)

2023年1月18日の特集「【テーマ銘柄】サイバー攻撃から国家インフラを守れ!」の参考銘柄のうち米国株
各種資料より野村證券投資情報部作成

このようにして見てみると、株価が大幅に上昇した銘柄がある一方、ナスダック総合指数をアンダーパフォームしている銘柄もあります。デジタル化やリモートワーク向けの需要はコロナ禍で一巡しており、セクター全体が株式市場に再評価されるには時間がかかっていることが示唆されます。

セキュリティ・ソフトウェア分野の業績は、一般には景気動向には左右されづらいとされますが、顧客企業によるソフトウェアの選別からは無縁ではありません。上記セキュリティ・ソフトウェア専業の企業間だけでなく、マイクロソフトやアルファベットといった基幹ソフトウェア大手との競合もあるため、各セグメント・各企業のコメントをよく確認しながら選別投資すべきテーマと考えられます。

(FINTOS!外国株 小野崎通昭)

ご投資にあたっての注意点