オフィス稼働率の底打ちが鮮明に

足元、J-REIT(不動産投資信託)市場の代表指数である東証REIT 指数は1,900ポイント前後で推移している。2023年2月から23年8月末まで振り返ると、東証REIT 指数は日本株市場の代表指数であるTOPIX(東証株価指数)をアンダーパフォームする展開となった。22年12月に実施された日銀金融政策決定会合において、長期金利の変動幅が従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大されたことに伴い、東証REIT 指数は一時1,800ポイントを割れた場面もあった。一方、その後同指数は下げ止まっており、これは加重平均配当利回りや株価/修正純資産倍率といった評価指標において投資魅力が高まったことが主因と考えられる。23年7月に実施された日銀金融政策決定会合では、長期金利の変動幅を「±0.5%程度」を目途としながらも、より柔軟に運用する方針が打ち出された。これに伴い、東証REIT 指数は1,900ポイント台から1,850ポイント程度まで調整したものの、その後は1,850ポイント程度を下限に安定的に推移している。

J-REIT の場合、毎月何らかの銘柄が決算発表と今後の業績見通しを開示している。その内容を確認すると、例えばオフィスに関しては、稼働率の底打ちが鮮明となりつつある。コロナ禍以降、J-REIT 各社では、オフィス賃料単価の上昇よりも稼働率の維持・向上を優先させる戦略を取っていたが、足元では同戦略が功を奏しているように見える。今年は、東京23区において大規模なオフィス新規供給が計画されており、その中でも相対的に大規模なオフィス新規供給と見られていた森ビルが開発した2棟の大型ビル等でもテナント内定は一定程度進捗している模様である。23年後半に向けて竣工が予定されるオフィスの内定が順調に進捗すれば、オフィス空室率は当初見込まれていたほどの上昇には至らない可能性もある。一方、新規供給ビルの仕様は高品質であり、そうしたことも内定進捗に貢献しているものと見られる。とはいえ、J-REIT が保有するオフィスの場合、一定の築年数が経過したオフィスも散見されるため、物件競争力の観点では、新規テナント入居までに時間を要す場合もあり留意が必要と言える。

J-REIT 市場は割安とは言いにくい

J-REIT が保有する賃貸住宅の大半はシングルタイプと言われる単身者向け住戸である。同タイプの住戸の稼働率はコロナ禍以降に95%を下回る事象が散見されたが、22年中に概ね底打ちし、23年に入ってからは再び96%超まで上昇してきている。入居者が入れ替った際の新規賃料(新入居者の賃料)は既存賃料(前入居者の賃料)との比較で減額されやすかったが、稼働率の底打ちを受けて傾向が変わりつつある。野村では、23年後半には同傾向が解消し、既存賃料比での新規賃料の増額幅が緩やかにプラス転化すると考える。日本全体の景況感は好調一辺倒とは言い難いものの、本年の春闘に続き、来年も一定の賃金上昇(ベア)を表明する企業が確認されれば、とりわけ東京23区に所在する賃貸住宅では、賃料上昇が期待できると見ている。

他方、コロナ影響からの回復期待が内包するホテルについては、ホテルの客室あたり売上単価を意味するRevPAR(宿泊単価×稼働率)水準がコロナ禍前である19年と比較してほぼ同水準又はそれ以上の回復が確認できる。仮に中国人観光客を含むインバウンド需要(訪日外客需要)がさらに拡大すれば、RevPAR 水準が大きく上昇する可能性は十分考えられる。足元のエネルギーコスト上昇に伴う水道光熱費の増加にホテル従業員等の人件費増加が重なることで、J-REIT と賃貸借契約を結んでいるオペレーター各社(ホテル運営者)の損益収支に悪影響を与える可能性もある。この点には留意が必要との見方が存在する一方で、オペレーター各社では想定よりも高いADR(宿泊単価)上昇を実現しているところも出始めており、この点を評価する向きもある。野村では、市場参加者の視点がRevPAR 水準から変動賃料の決定係数の一つであるGOP(営業粗利益)水準に移ると考える。同指標でコロナ禍前までの回復が見通せるようになれば、投資魅力がさらに増すであろう。翻って、足元のJ-REIT市場における加重平均配当利回りは4.1%、同株価/修正純資産倍率は0.9倍(いずれも8月31日終値時点)であり、過去5年の平均3.9%及び1.0倍と比べて割安とは言いにくい。米国をはじめ金融政策に変化が見受けられる環境下、短期的には米利回り曲線の変化に伴う資金フローの変化によって、利回り商品としてのJ-REIT 株価は影響を受ける。但し、植田総裁下での金融政策方針の不透明さが後退してくれば、J-REIT に対する市場の注目は再び高まると考える。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 大村 恒平)

※野村週報 2023年9月18日号「産業界」より

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