家電製品の需要は低調な推移が続く

テレビ、スマホ、パソコンなど民生用エレクトロニクス製品の需要は低調な推移が続いている。巣ごもり需要の反動減に加え、インフレ影響による低所得者層の支出抑制が広がっており、ゼロコロナ政策解除後の中国市場の動きも鈍い。

4~6月期決算では、供給制約の解消後に生じたペントアップ需要の落ち着きが見られた。ソニーグループのプレイステーション5の販売台数は前四半期比で48%減の330万台となった。セイコーエプソンのインクジェットプリンター、富士通ゼネラルの空調機、ヤマハの電子楽器などでも需要が低調だった。そんな中、デジタルカメラに関しては好調な販売を維持し、富士フイルムホールディングスやキヤノンのイメージング事業の業績貢献が大きかった。

地域別では、中国市場の落ち込みが続いている。ただ、期初の会社計画が保守的だったこともあり、4~6月期の中国売上の実績は野村想定をやや上回る着地となる企業も見られた(ヤマハの楽器事業や、カシオ計算機の時計事業の中国売上)。一方、流通在庫の調整があった北米の売上が想定を下回る企業が複数あった。年末商戦に向けては両地域の個人消費の動向が重要だが、先行きには不透明感が残るだろう。

人的資本および多様性は最近の注目テーマの1つであり、家電・精密各社では女性活躍の促進などが課題となっている。

例えば、ソニーグループは、取締役に占める女性比率が40%(10名中4名)だが、役員(上席役員+執行役員)に占める女性比率は12.5%(24名中3名)である。同社は取締役10名の内8名が社外取締役で、女性社外取締役を外部から登用することで監督機能における多様性を確保する狙いは評価できるが、執行機能における女性活躍は相対的に低い。また、グローバルな女性管理職比率は30.0%だが、海外のエンターテインメント系事業が比率を高めている面が強い。実際、国内の主要事業会社であるソニー株式会社では6.9%に留まっている。同社は有価証券報告書の中でも、「日本では、女性管理職比率が低く、教育課程において理工系分野を専攻する女性の数が限定的であることから、注力すべき領域」と説明している。

サステナビリティ関連の取り組みにも注目

9月14日、ソニーグループはサステナビリティ説明会を開催した。グローバルな社会課題への取り組み(新型コロナウイルス・ソニーグローバル支援基金など)、アクセシビリティ(視覚に障がいがあるユーザーの操作をアシストする機能を搭載したカメラなど)、インクルーシブな社会づくり(奨学生に対する支援など)、環境に関する取り組み(プラスチック包装材の廃止など)について紹介した。

前回(2022年9月)のサステナビリティ説明会では、AI(人工知能)の活用と責任についての説明があったが、今回はAIについてプレゼンの中では取り上げられなかった。過去1年で生成AI が急速に普及拡大し、ソニーグループを取り巻く事業環境も大きく変化している中で、AI について特段のアップデートが無かった点には違和感を覚えた。音楽業界における生成AIに対する著作権保護の問題や、映画業界でAI規制を求めるストライキが続いている問題に対して、当社のAI倫理委員会でどのような議論が行われているかなど、積極的に対外発信していく意義があると考える。

9月13~14日、パナソニック ホールディングスは技術展示会「Panasonic CorporateR&D Technology Forum」を開催した。基調講演で小川立夫CTO(最高技術責任者)は、注力領域であるグリーントランスフォーメーション(GX)とサイバーフィジカルシステム(CPS)が23.3期の研究開発投資の45%を占め、これを25.3期には70%に高めると説明した。展示会では環境関連の発表が特に充実していた。ペロブスカイト太陽電池ではガラス建材一体型、水素製造デバイスでは貴金属フリー陽極、全固体電池ではドローン等の超急速充電対応など、他社とは異なるアプローチで差異化を図っている。材料開発からソフトウェアまでコア技術が広範囲にわたっており、当社が事業ポートフォリオ見直しを進めていく中で、研究開発の対象分野の絞り込みや子会社との役割分担を適宜見直していくべきであろう。

23年3月、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)は「削減貢献量」の策定・報告に関するガイドラインを発行した。社会への削減貢献インパクトの標準化に向け、各社が働きかけを続けてきた成果の一部と評価される。スコープ1~3と併せて削減貢献量が評価基準となることによって、環境関連の研究開発が企業価値の向上により結びつきやすくなっていくと考える。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 岡崎 優)

※野村週報 2023年10月2日号「産業界」より

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