アジアを代表する国際金融センターの一つであるシンガポールでは近年、超富裕層によるファミリーオフィス(FO)の設立が増加している。FO とは、超富裕層一族の永続的な繁栄を目的として資産管理・運用や資産・事業承継等を専門的に行うための会社を指す。シンガポール金融管理局(MAS)によると、FO の数は2020年末の約400から22年末には約1,100へ増加したと推定されている。シンガポールのFO は主に、東南アジア諸国、中国、欧米諸国の超富裕層により設立されている。

シンガポールがFO 設立地として選好される理由として、超富裕層にとって魅力的な環境が挙げられる。大手コンサルティング会社のデロイトが、ビジネス環境、金融機関等の能力、安定性、税制・規制の4指標に基づいて21年に発表した国際ウェルス・マネジメント(WM)センター競争力ランキングにおいて、シンガポールはスイスに次いで2位であった。この点に関して、各国税務当局の監視強化に伴って、匿名性の高さを強みとしてきたスイスの相対的な地位が低下しており、シンガポールにとって追い風となっている可能性がある。

また、シンガポールにおけるFO の増加要因として、政府の施策が挙げられる。主に、法人税を免除する税制優遇措置と永住権優先取得制度があるが、特に税優遇が大きく貢献してきた。政府は、税優遇の要件の一つとして、運用資産額の10%以上をシンガポールの資本市場に投資することを義務付けることで、FO の誘致と同時に、国内資本市場の発展促進も図っている。

さらに、シンガポールでは、FO に携わる専門人材の育成も重視されている。例えば、MAS は20年、金融機関向け研修・教育機関と連携し、FO に助言を行うプライベートバンカー等に求められる能力を明確化したスキルマップを策定し、FO 専門人材の増加につなげている。他にも、富裕層向け資産運用の国内大手研修・教育機関が、新世代の超富裕層のニーズに対応可能な人材の育成を目的としたプログラムを提供し、登録者数を着々と増加させている。

今後、シンガポールが世界中からFO の誘致に成功し、国内WM 業界の更なる発展を通じて、国際金融センターとしての地位向上につなげることができるか注目したい。

(野村資本市場研究所 北野 陽平)

※野村週報 2023年10月2日号「資本市場の話題」より

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