米企業業績は23年7~9月期に回復へ

野村では、米国の実質GDP 成長率は2022年の前年比+1.9%に対し、23年は同+1.9%、24年は同-0.1%と小幅ながらマイナス成長を予想する。インフレ抑制のためにFRB(米連邦準備制度理事会)が積極的な政策金利引き上げを行ってきたため、経済成長の減速をもたらすと予想されるためだ。

野村では、今回の利上げサイクルにおける政策金利の到達点は現在の5.25~5.50%で、24年3月FOMC(米連邦公開市場委員会)から利下げを開始し、7会合連続で0.25%ポイントずつ引き下げ、24年末の政策金利水準は3.50~3.75%と予想している。

FRB は、量的緩和で拡大したバランスシート(証券ポートフォリオ)を縮小させている。野村では、バランスシートの縮小は当面、現行のペースで行われ、24年4月以降に終了すると予想する。

次に企業業績をみると、調査会社リフィニティブによる9月29日時点の集計では、S&P500指数構成企業のEPS(1株当たり利益)は、23年7~9月期は前年同期比-0.2%と予想されている。22年10~12月期から3四半期連続で前年同期比減益となっていたが、ほぼ横ばいに回復する見込みだ。23年10~12月期には同+9.4%へと増益に転じ、以降は増益と予想されている。

年度では、23年は前年比+1.3%と微増益が予想されているが、24年は同+12.1%、25年は同+11.9%と予想されている。今後、米国景気が悪化すると想定される中で上記のような企業業績予想となっている要因としては、米国には独自の技術力やビジネスモデルでグローバルに競争力を発揮し業容を拡大している企業が多数あることが考えられる。そのような企業は人工知能(AI)の普及など新しい事業機会を捉え、業績を拡大していくと期待される。

米長期金利(米10年国債利回り)は、原油価格上昇等によるインフレ再燃とそれに伴う金融引締め長期化が警戒され、足元で上昇している。だが野村では、米国経済が鈍化するに従い、今後は低下すると予想しており、今後、米株式市場では米企業業績の回復を織り込む局面となろう。

業容拡大が期待できる企業に着目

米国株式の銘柄選別の視点としては、独自の技術力やビジネスモデルで、今後も業容拡大が期待できる企業群に着目したい。

一例として、GPU と呼ばれる画像処理半導体の大手、エヌビディアに着目したい。ゲーム用PC のグラフィック処理に注力していたが、より複雑かつ市場機会の大きいAI や自動運転の分野に対象領域を広げ、AI用半導体では圧倒的なシェアを有する。

画像編集やイラスト制作ソフトウエアで競争力の高いアドビにも着目したい。電子商取引やソーシャルメディアの普及に伴い、当社製品への需要も拡大している。AI を組み込んだ製品の提供でユーザー層の拡大を図るなどの取り組みを行っており、今後AI 技術の収益化が予想される。

クラウド型で企業向けに営業支援や顧客関係管理のシステムを提供するセールスフォースにも着目したい。大型企業買収が続き、22.1期、23.1期と業績は足踏みが続いたが、買収した企業の業績貢献もあり24.1期以降は増益が予想される。

企業のアプリケーションシステムのインフラを監視、管理するソフトウエア群を提供するダイナトレースにも着目したい。企業が監視し分析すべきデータの加速度的な増加というトレンドが同社製品への追い風となっている。

売上高で世界最大のソフトウエア企業、マイクロソフトは、PC の基本ソフトウエアや表計算等のアプリケーションソフトウエアで構築した顧客基盤を生かし、業容を拡大している。米国の新興企業、OpenAIが開発した対話型ソフトウエアChatGPTを自社の検索エンジンBing と連携させるなど、積極的にAI を事業に取り込んで、他社に先行している。

eコマース(電子商取引)の最大手企業のアマゾン・ドットコムは、コロナ禍で急増した需要に対応するための能力増強投資で損益は悪化していたが、今後業績の回復が期待できる。

それぞれの分野で競争力を発揮し、着実な業容拡大で長期間増配を続ける優良企業も紹介したい。過去25年以上増配を継続している企業で構成される「S&P500配当貴族指数」採用で、かつNY ダウ指数の構成銘柄でもある企業は、シェブロン、スリーエム、キャタピラー、マクドナルド、プロクター・アンド・ギャンブル、コカ・コーラ、ウォルマート、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス、ジョンソン・エンド・ジョンソン、IBM等である。

(野村證券投資情報部 村山 誠)

※野村週報 2023年10月9日号「焦点」より

※掲載している画像はイメージです。

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