
建設業は、2024年3月末で労働基準法(以下、労基法)の残業時間規制の適用猶予が終了する、所謂「2024年問題」に直面している。
日本建設業連合会の22年度の調査では、労基法の法定時間外労働規制の上限である年360時間、月45時間を超過する就業者(非管理監督者)は59%に上る。
残業時間を削減する方策としては、これまでより工期を長く設定するなど受注条件を見直していくことが考えられるが、発注者側の費用負担が大きくなるため、一定の限度があろう。そもそも、建設業で長時間残業が定着している背景には、労働生産性の向上が進んでいないことがある。また、建設業は、人手不足が恒常化しており、就業者数を増やせないことも労基法対応が困難な一因であろう。
建設業が2024年問題へ対応するためには、IT(情報技術)を積極的に活用して業務効率化を進め、労働生産性向上を図ることが求められよう。既に、現場の施工管理に必要な情報の電子化によるスケジュール調整や図面変更の共有、ドローンを活用した測量・検査による屋外の作業負荷の軽減など、IT を活用した様々なサービスの開発や導入が進んでいる。しかし、導入コストや使い易さなどの面では、少なからず課題が残っている。
こうした中で注目されるIT活用の一つとして、施工現場の管理に関わるサービスのプラットフォーム化がある。現状、IT サービス企業は特定のサービスだけを提供するケースが多く、建設事業者は、全業務のIT化を進めるためには複数の企業と個別に契約しなければならず、費用や事務負担が大きい。複数のIT サービスが一つのプラットフォームに集約され、必要なサービスを選択できるようになれば、費用を抑えて自社に合った業務効率化を進め易くなろう。
足元では、これまでよりも安価に導入できる大型建機の遠隔操作システム、顔認証を活用した労務管理など、費用や使いやすさに配慮した新サービスの開発も一段と進んでいる。
2024年問題は、旧態依然とした建設業の体質の変革を迫っていると言える。2024年問題というピンチが、建設業界にとって労働生産性向上を進めるチャンスになることを期待したい。
(野村證券フロンティア・リサーチ部 原田 静雄)
※野村週報 2023年10月9日号「新産業の潮流」より
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