世界各国の防衛意識が高まる

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を契機に、国際政治の舞台でも力による現状変更への警戒感が徐々に強まっています。日本周辺でも、2022年8月の米国のペロシ下院議長(当時)による台湾訪問を契機に、台湾有事への懸念が台頭するなど、世界各国の防衛意識がより一層高まる局面を迎えています。

転換期を迎える日本の国防

米国や中国を筆頭に世界各国の国防費が増加している一方、日本の国防費は近年横ばいで推移してきました。しかし、2022年12月、政府は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」の三つの文書を閣議決定し、2027年度において防衛予算の水準を2022年度GDPの2%(約11兆円)に達するよう、所要の措置を実施すると明記しました。

(注)データは年次で、直近の値は2020年。図中の●%は、2020年国防費の対GDP比率。
(出所)Our World in Dataより野村證券投資情報部作成

防衛上必要となる機能・能力として、「スタンド・オフ防衛能力」「統合防空ミサイル防衛能力(ミサイル防空)」など、7分野の防衛力を抜本的に強化する方針を示し、今後5年間(2023年度~2027年度)の予算規模は43.5兆円と前回計画(2019年度~2023年度)の17.2兆円を大幅に上回る計画となっています。実際に、防衛力抜本的強化の初年度となる2023年度の防衛関係費は、前年度比+27.4%の6.6兆円(注)と大幅に増加しています。

(注)米軍再編や政府専用機、国土強靭化などを除いた予算規模。

(注)国家防衛戦略には7分野以外に「防衛生産基盤の強化」、「研究開発」、「その他」の項目がある。金額は防衛力整備計画で示された予算規模。
(出所)防衛省より野村證券投資情報部作成

広がりをみせる防衛関連事業

防衛装備庁が公表する契約情報では、日本の重工大手企業が調達額上位となっている他、米国の陸軍省や海軍省、空軍省からの調達額も大きくなっています。市場規模が大きい米国では、ロッキード・マーチンなど防衛関連事業を主業とする企業が多く、同盟国の日本は米国産の装備を多く導入しています。また近年は、軍事力に対する防衛に留まらずサイバーや宇宙領域からの攻撃も脅威となっており、政府は対応を強化する方針です。

ご参考:防衛関連銘柄の一例

・帝人(3401)

合成繊維の大手メーカーで、防弾チョッキに利用される炭素繊維を製造している。

・日油(4403)

天然油脂を用いた製品に強みを持つ化学メーカーで、防衛関連製品として火薬の生産を行っている。

・三菱重工業(7011)

火力発電所向けガスタービンや航空、宇宙、防衛など幅広く事業を展開しており、自衛隊に導入されている地対空誘導弾パトリオットミサイル「PAC-3」などの製造を行っている。

・川崎重工業(7012)

日本有数の航空機メーカーとして、防衛省向けに「P-1固定翼哨戒機」や「C-2輸送機」など航空機の開発・製造を行っている。また、ヘリコプタ-や潜水艦なども手掛ける。

・IHI(7013)

航空機向けエンジンを製造しており、航空機エンジン部品の大型シャフトで世界トップシェアを誇る。

・ボーイング(A0062/BA US)

航空機メーカーとして世界最大規模で、戦闘機や輸送機などを製造する防衛事業にも強みを持つ。

・ゼネラル・ダイナミックス(A0277/GD US)

戦闘用車両や艦船、原子力潜水艦などを製造する。

・ノースロップ・グラマン(A0540/NOC US)

防衛・宇宙分野の大手企業で、ミサイルや軍艦、戦闘機など幅広く製造する他、人工衛星なども手掛ける。

・RTX(A0753/RTX US)

ミサイル事業が主力で、サイバーセキュリティシステムや防空システムなども手掛ける。

・L3ハリス・テクノロジーズ(A1704/LHX US)

防衛分野の地上・機上無線システムなどに強みを持つ通信機器メーカー。

・ロッキード・マーチン(A3664/LMT US)

世界最大規模の防衛関連企業で、防衛関連製品を幅広く手掛ける。また、世界最新鋭ステルス戦闘機やミサイル防衛システム、空対地攻撃システムなどの開発も行っている。

(注1)全てを網羅しているわけではない。(注2)外国株式のコードは、野村コード/ブルームバーグコード。(注2)HDはホールディングスの略。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

(野村證券投資情報部 大坂 隼矢)

※画像はイメージ。

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