親から子、子から孫へと財産は引き継がれていきます。親は築いた財産をなるべく減らすことなく、子どもに引き継いてもらいたいと考えますが、遺産分割の仕方によっては相続する際に納める相続税の額が増減し、最終的に子どもが両親の財産を相続する際に遺産がほとんど残らないという事態も。どのように遺産分割をしていくといいか、大手町トラストの税理士に伺いました。

はじめに

夫婦と子という家族の相続において、一次相続(夫婦のどちらかが先に死去した場合の相続)と二次相続(夫婦のもう一方が死去した場合の相続)、二回の相続が発生することになります。夫婦の財産はこれら二回の相続を通じて子に承継されますが、一次相続時に配偶者がどれだけ財産を取得するかにより、一次相続・二次相続トータルの相続税額が増減します。今回は相続税額に影響を及ぼす「配偶者の税額の軽減」と、これを加味したバランスの良い分割方法について説明します。

配偶者の税額の軽減

配偶者の税額の軽減とは、被相続人の配偶者が遺産分割等により実際に取得した正味の財産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税がかからないという制度です。

(1) 1億6千万円 (2) 配偶者の法定相続分(※1) 相当額 

※1 民法第900条に定める、相続人が遺産の何割を相続できるかを表す法定割合のことであり、子と配偶者が相続人であるときは、配偶者の法定相続分は2分の1です。


つまり、一次相続において被相続人の配偶者が取得した財産額のうち少なくとも1億6千万円分については相続税がかからないことになります。ただし、一次相続において配偶者が被相続人の財産の多くを取得した場合、一次相続における相続税負担は軽減されますが、二次相続において、配偶者が相続した財産と配偶者の固有財産の合計額に対して相続税が課されるため、二次相続における相続税負担が重くなってしまいます。一次相続における遺産分割等の際は、二次相続における相続税負担を考慮して判断することが重要といえます。

二次相続を考慮した相続税額のシミュレーション

夫婦と子という家族の相続において、以下の前提のもとに一次・二次相続の相続税額シミュレーションを行いました。一次相続において夫の財産を妻が相続する割合を、ケース①:100%、ケース②:50%、ケース③:0%とした場合、トータルの税額は以下のとおりです。

【前提条件】
 ① 夫の保有財産の課税価格:1億円
   妻の固有財産の課税価格:1億5千万円(ともに老後の生活資金除く。)
 ② 一次相続の相続人:妻・子
 ③ 二次相続の相続人:子
 ④ 夫の死亡から15年後に妻が死亡すると仮定
 ⑤ 一次相続後の財産の増減はないものと仮定
 ⑥ 基礎控除と配偶者の税額軽減のみ考慮

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一次相続における配偶者の相続割合が異なるだけで合計相続税額に差異が生じます。上記ケースでは妻固有の財産額が多額であるため、一次相続で妻が多く相続するとトータルの納付税額が高額となってしまいます。 

※2 あくまでも一つのシミュレーションのため、すべてのケースにおいてケース③が有利ということではありません。夫婦の財産状況に応じて有利不利の結果は異なりますので、ケースごとのシミュレーションが必要となります。

金融資産を手許に残して不要な土地を物納する場合

【前提条件】
 ①相続人:配偶者と子 2人
 ②相続財産:「現金」、「上場株式」、「未上場株式」、「手放してもよい土地」
 ③相続人は現金を持っていない

子が現金を相続した場合、その現金で相続税を納付することになります。結果、子の手許に残るのは「手放してもよい土地」となります。

子が「未上場株式」と「手放してもよい土地」を相続した場合、現金納付が困難であると認められ、かつ「手放してもよい土地」が物納適格財産の要件を満たすならば、この不要な土地を物納に充てることができます。結果、子の手許には「未上場株式」という財産が残ります。また、配偶者が相続した現金や上場株式を生前贈与で子に渡していくことにより、より多くの金融資産を子の手許に残すことができます。

土地の物納を考える場合は、その土地が物納要件を満たすか(隣地との境界線は確定しているかなど)事前のチェック・準備が必要です。

バランスの良い相続財産の分割

一次相続で配偶者が取得する財産を決定する際、税金面の検討も重要ですが、被相続人や配偶者の希望を考慮して総合的にみてバランスの良い分割を検討するのが大切です。

分割時のポイント

  • 一次相続時に必要な納税資金の確保。
  • 配偶者の老後の必要生活資金を考慮し、それを超える分は一次相続時に次世代に相続させる。
  • 一次相続では、期間の経過とともに相続税評価額が下がる財産(自宅建物等)や二次相続までに相続税対策しやすい財産(生前贈与しやすい現金等)を配偶者に相続させる。
  • 他の税額軽減措置(死亡保険金又は死亡退職金の非課税枠、小規模宅地等の特例等)を考慮する。
  • 合計の相続税額の負担のみを考慮するのではなく、誰にどの財産を残したいかという被相続人の希望、配偶者の将来の生活の安定等を考慮する。

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