米国では中小企業を中心に、企業年金に未加入の従業員が5,700万人に上ると指摘されている。主な要因は、企業年金の導入及び運用コストの負荷や、運用に必要なリソースの欠如が挙げられる。そうした企業の従業員向けに、州政府が確定拠出型年金を提供する「州政府スポンサー制度」が普及し始めている。

州政府スポンサー制度は、2018年のオレゴン州を皮切りに、現在9つの州で稼働している。運用資産残高は23年7月時点で10億ドル超に上る。今後さらに11州で導入が予定されており、複数の州で1つのプランを利用する動きも出始めている。

同制度にはいくつかのタイプがあるが、最も普及しているのが、「IRA(日本のiDeCoに相当)自動化制度」である。①企業年金を提供していない企業に対し、従業員をIRAに自動加入させることを義務づけ、②拠出率を自動的に引き上げ、③デフォルト・ファンドで運用するという仕組みである。従業員は非加入を選択できるので強制加入ではない。同制度の中で最大規模を誇るのが、カリフォルニア州のカルセーバーズである。19年に開始され、23年7月末時点で残高有りの口座数は43.7万口座、運用資産総額は6億ドル超に上る。

カルセーバーズでは、企業側の負担を軽減する工夫が施されている。第一に、企業が拠出する必要はなく、制度運用に関わるコストの負担も不要とされる等、企業の金銭的負荷が伴わない設計となっている。第二に、企業規模に応じて企業への義務づけの開始時期を段階的に設定した。大企業に比べ小規模企業は開始時期を遅く設定し、準備期間を提供した。第三に、企業との個別面談や、英語以外の多様な言語での情報提供等、企業や加入者へのサポートを充実させている。

日本も、中小企業を中心に多くの従業員が企業年金に未加入という問題を抱えている。これまでも様々な対策が講じられてきたが課題解消には至らず、大胆な制度改正を検討すべき段階にあるとも思われる。中小企業従業員の加入を本格的に拡大するには、米国IRA 自動化制度のように、ある程度の強制力を持たせつつ、企業側の負担軽減策を講じるといった工夫が必要と考えられる。そうした観点から、米国の州政府の取組みは参考になろう。

(野村資本市場研究所 中村 美江奈)

※野村週報 2023年10月16日号「資本市場の話題」より

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