IEA(国際エネルギー機関)は、パリ協定で定められた2050年温室効果ガス排出実質ゼロ(ネットゼロ)に向けた「ネットゼロ・ロードマップ(Net Zero Roadmap A Global Pathway to Keep the 1.5°C Goal in Reach)」の2023年版を発表しました。2021年に発表したロードマップは各国の政策や産業の脱炭素投資に大きな影響を与えました。

2023年版は、2050年ネットゼロに向け世界のクリーンエネルギー投資を2030年までに年間4兆5,000億ドル(約670兆円)に増額する必要性を示しました。これは、2023年の世界のクリーンエネルギー投資額の約2.5倍で、日本の2023年度の国家予算の約5倍です。具体的な措置として、2030年までに2022年比で再生可能エネルギー(再エネ)発電を3倍に、また、エネルギー効率を2倍にすることを示しました。

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ネットゼロ達成のために今後実用化が必要な新技術の割合は、約50%から約35%に引き下げられました。これは、ナトリウムイオン電池や固体酸化物水素電解装置の商業化などが始まったためです。

ここ2年で想定以上に普及が進んだ、①太陽光発電容量、②バッテリー容量、③自動車に占めるEVの割合、④電化率についての2030年と2050年の見通しが2023年版ではそれぞれ引き上げられました。

一方で、CCUS(CO2の回収・有効利用・貯留)や水素利用の見通しは引き下げられました。これらは、政府による補助金の導入で民間のコストが軽減された欧米ではプロジェクトが進捗した一方で、コストの高い中東やアジアでは遅れていることが指摘されました。

中国は、太陽光発電や風力発電の関連製品の製造拠点としての比率が今後も高いことが見込まれています。一方で、バッテリーや水素、ヒートポンプ(冷暖房)の生産設備については、産業の裾野が中国からほかの地域へ広がることが予想されています。

2023年9月29日、IEAとECB(欧州中央銀行)、EIB(欧州投資銀行)は、欧州のクリーンエネルギーへの移行のために、政策と金融商品を活用し、認可の手続きを簡略化することなどで、投資資金を拡大させる方針を発表しました。

また、2024年1月1日からはIFRS(国際会計基準)でのサステナビリティ関連開示義務が開始されます(注)。IFRSを採用する上場企業は、サプライチェーンの温室効果ガス排出を含めた開示が必要となります。サプライチェーンを形成する中小企業の脱炭素化を推進する評価機関や金融の取り組みも始動しています。

日本企業を含め、クリーンエネルギー関連産業の裾野が広がることが期待されます。

(注)日本で同様の基準での開示開始は2026年3月期決算以降の予定。東証上場企業でIFRS基準での開示を行っている企業は2023年8月末時点で262社。

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