2022年10月に日本政府が海外旅行客の受け入れを再開してちょうど一年が経過した。23年9月の訪日外客数は218万人(19年同月の96%)となり、インバウンドはほぼコロナ前まで回復したと言える。
インバウンドが今後も増加を続けるかどうか、重要な要因の一つは中国人旅行者の動向だ。新型コロナ関連の水際対策の緩和の遅れから、中国人旅行者の回復は他国に比べて遅れていたが、団体旅行の解禁もあり、徐々に回復していくことが予想される。懸念材料となるのは、福島第一原子力発電所による処理水放出の影響だ。8月24日に処理水の放出が開始された後、中国人旅行者による日本への旅行のキャンセルが相次いでいるとの報道がされた。
しかし、23年9月時点においてその影響はそこまで大きくないようだ。中国からの訪日外客数は23年7月に31万人(19年同月の30%)、8月に36万人(同36%)、9月に33万人(同40%)となっており、回復ペースは鈍いが、観光客数が激減するような事態には至っていない。12年9月の尖閣諸島の国有化を契機に、中国からの訪日外客数が半分以下に急減した際と比べると影響は限定的といえよう。
中国人の日本への印象に関する世論調査(23年は処理水放出の前後に調査を実施)の結果を見ても、良くない印象を持つ人の割合は22年から横ばいであり、尖閣諸島国有化時の急激な悪化とは対照的である。中国人の対日感情の悪化という観点からも、訪日客の急減にまで至るとは想定しづらい。今後の動向を引き続き注視する必要があるものの、処理水放出の影響は中国人観光客の回復ペースをジワジワと下押しする程度に留まると推測される。
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(野村證券経済調査部 野﨑 宇一朗)
※野村週報 2023年10月30日号「経済データを読む」より
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