地球温暖化対策の切り札として、大気中の二酸化炭素(CO2)を回収・貯留する新技術「DACCS」が注目されている。

地球温暖化の影響が年々深刻化し、温暖化対策の緊急性がかつてないほど高まっている。2023年夏は、日本だけでなく、世界全体でも観測史上最も暑い夏だった。同年8月には、産業革命以降における世界平均の温度上昇幅が約1.5℃に到達したことが報告されている。

地球温暖化の主因であるCO2を大気から直接除去するネガティブエミッション技術の一つがDACCS である。DACCS では、まずファンで取り込んだ大気を特殊な水溶液等に接触させることで、大気からCO2を分離する。その後、熱等を加えて水溶液からCO2を回収し、地下の帯水層や枯渇した油田・ガス田などで貯留する。

ネガティブエミッション技術には、藻類を用いて海洋のCO2吸収を促進するブルーカーボンや、CO2を吸収する鉱物を土壌や海洋に散布する風化促進、海洋アルカリ化などの技術もある。しかし、これらの技術は、実際にどの程度CO2を吸収したか定量化することが難しい、環境への悪影響も懸念される、といったデメリットがある。一方、DACCS は、CO2吸収の定量化が容易で、環境への悪影響も限定的である。

そのため、米国はDACCS の実用化に向けて本格的に動き出している。22年8月に成立したインフレ抑制法では、DACCSで回収・貯留したCO2に180米ドル/トンの免税措置を設けている。23年8月には、米国エネルギー省が、テキサス州とルイジアナ州の2カ所のDACCS 商用化プロジェクトを中心に、計12億米ドル(約1,800億円) を拠出すると発表した。両州のDACCS は、いずれも年間100万トンのCO2を回収する計画である。

欧米では、既に05年頃からDACCSに特化したスタートアップが登場している。このような中、米国の大手企業によるDACCS 関連スタートアップの積極的なM&A が増加し始めている。22年4月にはBaker HughesがMosaic Materialsの、翌年8月にはOccidental Petroleum がCarbon Engineering の買収を発表した。

日本でも経済産業省を中心にDACCS導入についての議論が始まっており、今後の動向が注目される。

(野村證券フロンティア・リサーチ部 横山 恭一郎)

※野村週報 2023年10月30日号「新産業の潮流」より

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