日銀政策決定会合:YCC(長短金利操作)の運用の更なる柔軟化を決定

日本銀行は10月30、31日に金融政策決定会合を開催し、7月会合に続いてYCC(長短金利操作)の運用を更に柔軟化することを決定しました。具体的には、10年国債利回りの誘導目標を従来通り0%程度としつつ、その上限の目途を0.5%から1.0%へと引き上げました。その上で、「指し値オペの利回りは、金利の実勢を踏まえて、適宜決定する」としました。声明文では、今後の政策運営の指針を示すフォワードガイダンスに修正はありませんでした。7月会合では上限の目途は0.5%に据え置いたものの、指し値オペの水準を1.0%とすることで事実上、許容変動レンジの上限を引き上げました。今回の変更は10年国債利回りが上限の1.0%近傍まで上昇する中で政策対応の柔軟性を高め、「日銀の国債購入が過度に膨らむ」、あるいは「イールドカーブが極端に歪む」といった副作用の緩和を意図したものと理解できます。

同時に公表された展望レポートでは、コアCPI(消費者物価(除く生鮮食品))の見通しが2023年度が前年比+2.8%(前回7月同+2.5%)、24年度が同+2.8%(同+1.9%)、25年度は同+1.7%(同+1.6%)へそれぞれ上方修正されました。インフレ見通しの上方修正自体に違和感はありません。24年度の見通しを大幅に引き上げた理由として日銀は「原油価格の上昇と経済対策による押し下げの反動等」と解説しています。また、25年度の見通しも同+1.7%と2.0%の物価安定目標の「持続的・安定的な実現」には微妙な見通しであることから、日銀は必ずしもインフレ基調の変化に自信を深めている訳ではないようです。

今回の政策変更、インフレ見通しの上方修正ともに日本経済新聞などで事前に報じられていたことから意外感はありません。ただし、市場ではYCC運用柔軟化に関して「金融政策の正常化に向けた地ならし」と言った見方と、「より粘り強く金融緩和を継続するための措置」との、両面の見方がありましたが、今回の政策変更、声明文、インフレ見通しはいずれの解釈も否定するものではなかったと言えます。また、市場の一部には「円安対策としての政策変更」との思惑もありましたが、今回の決定を受けて為替市場では再び円安が進行しています。これらの点を踏まえて、本日15時半から予定されている記者会見で、植田日銀総裁が今回の運用柔軟化の意図をどのように説明するかが注目されます。

(野村證券投資情報部 尾畑 秀一)

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