日銀はYCC を再修正も円安継続

ドル円相場は10月の日銀金融政策決定会合後、一時年初来高値となる151円70銭台まで上昇した。日銀は長期金利の1%上限を厳格な上限から目途へと変更し、長期金利上昇を許容することを決定した。7月会合に続きイールドカーブコントロール(YCC、長短金利操作)政策の修正に踏み切ったが、円高インパクトは限定的に留まったと言える。事前報道で1.5%程度まで長期金利上限が引き上げられる可能性も報じられていたため、あくまでも想定の範囲内の修正に留まったとの見方だろう。

もっとも、ドル円は昨年高値である151円94銭を突破することはなかった。①本邦当局による円買い介入への警戒感、②米金利ピークアウト期待、が高まったことがドル円の上値を抑えていよう。

ドル円の年初来高値更新を受け、11月1日には神田財務官が円安について、「(要因で)一番大きいのは投機」「ファンダメンタルズと合っていない」とした上で、為替介入についてスタンバイと明言した。神田財務官は2022年9月22日の介入直前にも、「(為替介入などの対応は)スタンバイの状態だ」と発言していた。実弾介入発動が近いことを意識させる、かなり強い口先介入と言えよう。

日銀会合後の円安のスピードの速さに加え、米日金利差が全体的に縮小する中で円安ドル高が加速したことで、ファンダメンタルズに反した投機的な動きと当局が見なしやすくなっている可能性がある。152円超での円買い介入の可能性に注意が必要だろう。海外勢の間でも介入への警戒感が高まった印象であり、当面のドル円の上値を試す機運低下につながりそうだ。

高まる米金利ピークアウト期待

11月FOMC(米連邦公開市場委員会)は大方の予想通り政策金利が据え置かれたが、声明文では金融状況の引き締まりが経済活動や雇用、インフレに影響を及ぼす公算との言及が見られた。FRB(米連邦準備制度理事会)が長期金利上昇の影響を警戒している姿勢が改めて示されたと言える。パウエル議長は追加利上げの可能性を排除していないが、12月利上げの確度は低下していよう。

FRBは依然としてデータ次第の姿勢でもあり、米指標次第で金利上昇圧力が再燃する可能性は否定できないが、11月第1週に公表された米指標は利上げ休止や早期利下げ開始への期待を高める内容となった。雇用統計では労働市場の過熱感後退が示唆される。ISM(全米供給管理協会)指数は製造業、サービス業ともに市場予想以上に低下しており、7~9月期に見られた米経済の再加速が一時的に留まる可能性が高いことも再確認されている。

FRBが追加利上げに慎重姿勢を見せ、米指標にも弱さが見え始めたことで、米金利はピークアウトの公算が高まった。介入警戒感の高まりもあり、ドル円の上値は重くなりそうだが、明確な円高ドル安トレンドに入ったと判断するのは時期尚早だろう。

雇用統計などの米指標下振れ後の米株反発に見られるように、市場では米景気軟着陸期待が依然として優勢と見られる。米景気楽観論が維持される中での株高や為替市場の予想変動率低下は金利差収入目的での円売り需要を維持、クロス円での円安圧力がドル円にも下支え要因となり得る。

FOMC及び米雇用統計後の米長期金利急低下や株価急反発による金融環境の再緩和を受けて、FRB高官発言のタカ派色(金融引き締め重視姿勢)が再び強まる可能性にも注意が必要だろう。また、口先介入レベルの強化により、150円超でのドル円の上値を試す機運は低下の公算が大きくなったとはいえ、ドル円相場を押し下げることには必ずしもつながらない。日銀発の本格的な円高圧力の高まりについても、マイナス金利解除やその後の利上げ期待の高まりが必要となると見られる。

24年1~3月期に向けては円高圧力がより本格化する可能性が高いと見ているが、目先は150円近い水準でのドル円の高止まりが続きやすい。本格的な円高転換のタイミングを占う上で、米国を中心に世界の主要指標が一段の弱さを見せるか、日銀がより本格的な政策修正に向けた動きを早めるか、に注目したい。

(野村證券市場戦略リサーチ部 後藤 祐二朗)

※野村週報 2023年11月13日号「焦点」より

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