
少子高齢化や檀家・氏子意識の希薄化等を背景に、神社・仏閣を取り巻く環境は激変している。こうした変化に対応するために、一部の神社・仏閣ではデジタル技術の活用が進んでいる。
以前から、寺社のホームページ上でお守りやお札を授与・頒布する、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で境内の様子や各種神事を掲載する、といった取り組みはあった。足元では、メタバース(仮想空間)を活用する神社が現れている。アバターは柏手を打つ、お賽銭を投げる等の動作ができる。メタバースの活用頻度が相対的に高い若年層を中心に、認知度の向上や参拝者の増加を期待できよう。
参拝時の満足度を向上させる取り組みも進む。福岡県の紅葉八幡宮は、御朱印にAR(拡張現実)技術を組み合わせた。専用のアプリを介して御朱印を撮影すると、祭神の立体画像とともに説明文が表示される。御朱印集めが注目される中で、神社への理解を深めてもらう目的で公開した。増加する外国人参拝者に対応するために、おみくじの紙にQR コードを記載した神社もある。コードを読み込むと、英語をはじめとした様々な言語で吉凶を確認できる。
参拝頻度を高める取り組みとして、公式アプリをリリースし、参拝回数に応じて様々な特典と交換できるポイントを付与する神社もある。また、お守りや御朱印をNFT(非代替性トークン)化して授与・頒布することで、デジタル資産でありながら真正性や唯一性を実感できるようにしたり、建物の建設・修繕費にクラウドファンディングを活用したりする事例もある。
様々なデジタル技術が活用され始めているが、利用には一定の「節度」が求められよう。2019年6月に京都仏教会は、「布施の原点に還る」と題した声明を発表し、お布施のキャッシュレス決済に反対した。やみくもに新しい技術を活用するのではなく、神社・仏閣のおかれた立場や特性を踏まえて活用を検討する必要がある。
デジタル技術は利用者の把握が容易である。また低コストで、多数の参拝者とつながりをもつことを可能にする。宗教上の教義や理念に基づいた規律や節度を守りつつ、古き良き日本の歴史・文化を維持・発展させる一助として、デジタル技術の活用は検討に値しよう。
(野村證券フロンティア・リサーチ部 渡邊 洋一)
※野村週報 2023年11月13日号「新産業の潮流」より
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