自動車の電動化ではパワー半導体が主役

パワー半導体は、電力の制御・供給を行う半導体です。EV(電気自動車)などの電動車に必要不可欠なインバーターやオンボードチャージャー(車載用充電器)などに用いられています。

現在EVに搭載されているパワー半導体の主流はSi(シリコン)を材料としていますが、今後は、電力損失の更なる低減や小型化を実現すべく、SiC(炭化ケイ素、シリコンカーバイド)を材料とする半導体の採用が徐々に進んでいくと予想されます。

EV向けにSiCパワー半導体市場の拡大が期待される

SiCパワー半導体は、従来のSiに比べて動作上限温度が高く、耐圧性に優れています。欧州や米国などでは、EVの電池電圧を現状の2倍となる800Vまで高める取り組みが加速しており、高電圧化がSiCパワー半導体普及の追い風となりそうです。

他社に先駆けてEV大手のテスラは、量産型EV「モデル3」にSTマイクロエレクトロニクス製のSiCパワー半導体を採用しました。2025年には、他の自動車メーカーからもSiCパワー半導体を採用したEVが次々と市場に投入される見込みです。SiCウエハー最大手のウルフスピードによると、2027年のEV向けSiCパワー半導体の市場規模は、2022年比約5倍に成長すると予想されています。

(注)EV向けSiC市場の数値はウルフスピードの推定・予想値(2022年10月31日時点)。
(出所)Yole Power「SiC 2022 report」、ウルフスピード「Investor Day 2022」より野村證券投資情報部作成

太陽光発電などでも活用が進む

再生可能エネルギー分野では、太陽光発電用パワーコンディショナーなど電力変換システムで、Siの代替として、SiCパワー半導体の活用が進んでいます。太陽光発電では、太陽光により直流電力を生み出し、それを家庭やオフィスで利用するために交流電力に変換する必要があります。そのため、変換効率と電力密度を向上させることができるSiCが採用されています。

風力発電用では、コスト競争力に優れる現行のSiが依然として用いられているものの、系統蓄電池やEV充電器用ではSiCが主流となっています。

(注1)インフィニオン・テクノロージズが主催するイベントInfineon Power Roadshow(Nov.22)を参照。(注2)半導体搭載金額は、1メガワット(1MW)の電力を生成するために使用される半導体搭載額の費用をユーロで表したもの。
(出所)野村證券エクイティ・リサーチ部より野村證券投資情報部作成

ご参考:パワー半導体関連銘柄の一例

・レゾナック・HD(4004)

2022年9月にSiCパワー半導体に使用されるSiCエピタキシャルウエハーについて、国内メーカーとして初の200mm(8インチ)サイズのサンプル出荷を開始した。

・ディスコ(6146)

SiCの塊(インゴッド)から、高効率かつ高精度にウエハーを切り出す加工技術「KABRA(カブラ)」を開発した。

・三菱電機(6503)

パワー半導体世界大手。SiCパワーモジュールをEV向けに展開するなどして、2031.3期のパワーデバイス事業におけるSiC関連の売上高比率を30%以上に高めるとしている。

・富士電機(6504)

パワー半導体の世界大手。SiCパワー半導体の生産能力を2027.3期に2023.3期比50倍に増強するとしている。

・ルネサスエレクトロニクス(6723)

2025年にSiCパワー半導体の量産開始を計画している。2023年7月にウルフスピード社とSiCウエハーの長期(10年間)供給契約を結んだ。

・デンソー(6902)

同社が開発したSiCパワー半導体を用いたインバーターが、トヨタ自動車LEXUSのEV専用モデルに搭載されている。

・ローム(6963)

2009年にSiCウエハーメーカーを買収した。2022年にSiCパワー半導体の量産を開始した。2028.3期までにSiC事業に5,100億円の投資を計画している。

・ウルフスピード(A3028/WOLF US)

SiCパワー半導体専業メーカー。ウエハーからモジュールまで手掛けている。

・STマイクロエレクトロニクス(A3910/STM US)

2019年にSiCウエハーメーカーを買収した。当社製のSiCパワー素子がテスラの「モデル3」のインバーターに量産車として初めて採用された。

・インフィニオン・テクノロジーズ(G0333/IFX GY)

世界トップクラスの車載半導体メーカー。パワー半導体では世界トップシェア。韓国現代自動車グループのEVプラットフォームにSiCパワー素子が採用された。

(注1)HDはホールディングスの略。(注2)外国株式のコードは、野村コード/ブルームバーグコード。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

(野村證券投資情報部 澤田 麻希)

※画像はイメージ。

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