消費の二極化は今後も続こう

直近の小売各社の販売動向では、引き続き経済活動活発化の恩恵が見てとれている。ドラッグストアでの化粧品需要の増加、コンビニエンスストアへの立ち寄り需要の回復などが続いている。アパレル関連では、高気温の影響が秋冬物の販売に向かい風となっているが、外出需要が販売を下支えしている状況も見て取れる。百貨店各社についても、免税売上高の拡大も含めて追い風を引き続き受けていると言えよう。

一方、食品関連などで単価上昇が続いており、インフレ環境下における消費者の消費行動は選別的になってきている。家電など耐久消費財の需要が弱めである点に大きな変化はなく、インフレを背景に消費者が家電の購入を控える動きが続いていると想定される。また、生活必需品関連では節約志向の影響も見えており、ディスカウントストア等の販売は順調に推移している。

インフレ環境が続く点に鑑みれば、消費の二極化が続くと予想される点を念頭においた投資戦略が重要となってこよう。同じ業界内でも消費者の支持を得られるかによって、企業間の格差がさらに広がる可能性もあると考える。消費の二極化の観点では、高付加価値な商品やサービスで消費者需要を捉えられる企業の業況にまず注目できると考える。低価格に強みを持ち、節約志向の受け皿となる企業や、独自の要因により業績回復や業績成長が見込まれる企業の業況にも注目したい。

免税売上の貢献に加え、高額品販売の順調な販売が続く点に鑑みると、百貨店の業況は2024年にかけても良好だろう。百貨店の中では、経費抑制やCRM(顧客関係管理)戦略の強化など独自の取り組みを評価できる三越伊勢丹ホールディングスの事業動向に注目している。また、統合シナジーの発現が続く中、化粧品の需要回復、免税売上の貢献が予想されるマツキヨココカラ&カンパニーの業況にも注目している。節約志向の受け皿の観点では、消費者への価格面でのアピールが継続的な客数改善につながっているコスモス薬品の良好な販売は今後も続こう。独自要因の観点では、良品計画において新商品の取り組みが一定の成果につながる中、日本での売上・収益性の改善が見込まれる。

消費構造変化が百貨店への追い風に

消費の構造的な変化にも注目をしたい。日本では富裕層の世帯数や保有資産の増大、パワーカップル(高収入同士の夫婦)の増加などが進んできた。このような流れは百貨店など高額消費への追い風につながっていると野村では考えている。富裕層の増加等を背景に百貨店の高額品の販売は好調に推移している。美術・宝飾・貴金属の売上高ではコロナ前を上回る水準が続いているほか、ラグジュアリーブランドの婦人服などの販売も順調であると見られる。

若年新規顧客の取り込みも百貨店で進んでいる。例えば、大丸松坂屋百貨店の外商顧客の年齢階層別のシェアでは、20~40代の構成比が高まっている。パワーカップルの増加、企業経営者など若年富裕層の増加といった社会構造の変化そのものが百貨店での若年層顧客の増加につながっているとも言えるだろう。一方、若年層顧客をターゲットとしたブランドの展開、若年富裕層と相性の良いアートの強化、デジタルを活用したCRM など、若年層顧客を取り込むための各種施策も奏功していると野村では考えている。

富裕層の保有資産の状況については株式市場の動向等に依存すると言えるものの、富裕層の裾野の拡大、若年層の購買力の上昇といった点には継続性があると言えるだろう。百貨店各社は新たな顧客層を取り込むための施策を展開できており、新たな顧客層を今後も継続的に捉えていくことができるだろう。百貨店各社は中心顧客の高齢化という積年の課題から徐々に脱しつつあると言えるだろう。

パワーカップル化の進展と、保有資産額の多い富裕層の増加は、東京都を中心とした首都圏で特に顕著となっている。経済活動の東京一極集中の状況に大きな変化はないと想定されるため、賃上げによる高額消費の増加、資産効果による富裕層の消費刺激などは、特に東京都市圏で影響が出やすいことが予想される。東京での百貨店売上高は全国の販売動向と比べて継続的に良好に推移するなど、東京エリアの優位性は既に顕在化している。高額品や高品質商品の購買場所として、百貨店全般に優位性はあると野村では考える。ただし、東京エリアでプレゼンスを発揮できていれば、継続的な販売増を実現できる可能性が高いと言えるだろう。百貨店の中では、伊勢丹新宿本店を中心に高いブランド力を持ち、東京の販売構成比が大きい三越伊勢丹ホールディングスのポジショニングが良いと野村では考えている。

(野村證券エクイティ・リサーチ部 山岡 久紘)

※野村週報 2023年11月27日号「産業界」より

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