2024年1 月から開示状況を毎月公表

東京証券取引所(東証)は8月に、企業価値向上に向けた企業の取組みに関する開示の状況について、3月期決算企業のコーポレート・ガバナンス(CG、企業統治)報告書が揃う7月中旬時点の集計結果を公表した。

取組み等を開示した企業はプライム市場の20%、スタンダード市場の4%だった。また、具体的な取組みは検討中で今後公表すると回答した企業は、プライム市場の11%、スタンダード市場の10%だった。プライム市場上場企業のうち取り組み等を開示または検討中との企業が31%という結果は、十分な数字とは言えないだろう。

東証が開催する、市場区分の見直しに関するフォローアップ会議メンバーの反応を見ると、短期間でこれだけの企業が開示したと前向きに受け取る意見があった。一方で、「取組みを開示していない70~80%の企業がしっかり変わっていくことが市場の改革につながると思います」「今回の集計結果は思ったより記載が少なかったということと、『検討中』とする企業が特にスタンダードを中心に多かったことはやや意外と言いますか、失望した点でもあります」といった反応もあった。

その後、フォローアップ会議において、このような開示状況を踏まえてどのように企業の取組みに関する開示を後押しするべきか、議論が進められた。そして会議での議論を受けて、東証は10月26日に、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表等について発表した。

東証は24年1月15日から、プライム・スタンダード両市場の全上場企業を対象に、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた取組みを開示している企業の一覧表を開示する。これは23年12月末時点における最新のCG 報告書において、「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】」というキーワードが記載されているかどうかで判断される。

以後、各月末のCG 報告書を基に、翌月の15日を目途に一覧表が更新される予定である。この一覧表は日本取引所グループのウェブサイトに、エクセル形式で日本語版、英語版が掲載される。

開示を踏まえた建設的な対話の進展に期待

また、東証は企業の開示状況や投資家等からのフィードバック等を、概ね半年に1回程度集計する予定である。次回の集計は24年1月が目途とされている。

なお、企業によっては、現状分析や検討に一定の期間が必要となることも考えられる。この場合、まず企業は計画策定・開示に向けた検討状況や開示の見込み時期を示し、計画策定が完了した時点で改めて具体的な内容について開示するなど、段階的に開示を拡充していくことが想定される。このような企業に対して東証は、株主・投資者のわかりやすさの観点から、検討状況や開示の見込み時期について可能な限り具体的な説明をするよう要請している。

さらに、24年1月を目途に、東証は投資者の視点を踏まえた対応のポイントや、投資者の高い支持が得られた取組みの事例について、企業の規模や状況に応じていくつかのパターンを取りまとめ、公表する予定である。

時価総額が小さい企業の中には、東証の要請に対応するノウハウやリソースが不足していると見られる企業が少なからずあると見られる。実際、東証が発表した7月中旬頃までの企業価値向上に向けた取組みの開示状況では、時価総額の小さい企業群の開示比率は低かった。東証が企業の取組み事例を開示するのは、こうした企業に対する支援でもある。

また、PBR(株価純資産倍率)が1倍以上の企業群でも、企業価値向上に向けた取組みに関する開示の実施比率が低かった。東証は、3月末に企業価値向上に向けた取組みをプライム・スタンダード両市場の全上場企業に対して要請した際に、PBRが1倍未満の企業に対して「強く」要請するとしていた。これが各種報道での「PBR 1倍割れ」の過剰な強調につながってしまった可能性がある。その結果、PBRが1倍以上の企業群に対して、企業価値向上に向けた新たな取組みを進める必要は薄いと誤解させてしまった可能性は否定できない。

こうした現状を踏まえて、東証は再度、PBRが1倍以上の企業に対しても、更なる企業価値の向上に向けた取組みについて積極的な検討・対応を要請していることを再度強調した。

24年からは、上場企業が自社の事業環境・市場評価をどのように捉え、どのような手段で企業価値を向上させていくかという開示が一段と進むだろう。それをベースに、投資家と企業との更なる建設的な対話が期待される。

(野村證券市場戦略リサーチ部 元村 正樹)

※野村週報 2023年12月4日号「焦点」より

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