食品の保存期間を延ばす新たな手法として、食品自体をコーティングする技術の実用化が進んでいる。

食品の表面に食品コーティング剤を直接塗布すると、薄い保護膜が形成される。コーティング剤の活用が想定される食品は、ロス率の高い青果、水産物、畜産物といった生鮮食品である。コーティング剤によって違いがあるものの、主に対象物からの水分蒸発を抑えつつ、酸素や雑菌等の侵入を防ぐ効果がある。コーティング剤の主な成分は食品添加物や天然由来成分であり、人体への影響や環境への負荷を抑えることも意識されている。現在、米国を中心に各国の企業が技術の開発、実用化に取り組んでおり、注目が高まっている。

NanoSuitは、自社開発溶液とプラズマ照射によって食品を殺菌しつつ水分蒸発を抑制する技術を開発する、浜松医科大学発ベンチャー企業である。神戸市と実施した実証実験では、同社技術による処理を加えたマスカットをドライコンテナ(常温輸送の一般的なコンテナ)で香港へ輸出し、11日間鮮度が保持されたことを確認した。

Akorn Technology は非遺伝子組換のとうもろこしを主原料とした、100%植物由来のコーティング技術を開発する米国のスタートアップ企業である。同社のコーティング剤は、りんごやアボカド、洋ナシ等7種類の作物に使用可能で、重量減少や腐敗、カビの軽減等の効果が確認されている。

食品コーティング技術は、包装や冷蔵・冷凍といった既存の食品保存技術では難しかった、環境負荷の低減が期待されている。例えば、食品の鮮度維持に使われてきた各種包装資材を食品コーティングに置き換えると、包装資材の廃棄時に発生するプラスチック等のゴミを削減できる。また、輸送手段を航空機やリーファーコンテナ(温度管理機能を持つコンテナ)から鉄道やドライコンテナへ置き換えられるため、輸送時のCO2排出量の削減も期待される。

現状、食品コーティング技術には、専用設備の導入やコーティング剤のランニングコスト等、費用面での課題が残る。今後は、事業のサステナビリティ(持続可能性)の観点から、食品の保存期間のみならず環境への負荷も強く意識されよう。各種課題が解決され、食品コーティング技術が汎用化される日が待たれる。

(野村證券フロンティア・リサーチ部 内田 雄己)

※野村週報 2023年12月4日号「新産業の潮流」より

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