鉄鋼や化石燃料等のエネルギー集約型・高炭素排出型産業を中心に高度成長を実現してきた中国は、世界最大の二酸化炭素排出国となり、環境問題が経済発展の足かせとなりつつある。そこで、中国政府は、2015年からグリーンファイナンス推進を重要施策として取り組み、60年までに二酸化炭素排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を実現するという目標を掲げた。目標達成に向けて、中国政府はグリーンボンド市場の育成に注力しており、22年時点の中国のグリーンボンド発行額は米国を超え、世界1位となっている。

そして、国際資本市場協会(ICMA)がクライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック(CTFH)を20年12月に公表したのをきっかけに、中国では脱炭素社会への移行に向けた金融(トランジション・ファイナンス)の活用も進んでいる。その背景として、トランジション・ファイナンスはグリーンボンドによる資金調達が難しい上記産業の移行支援に役立つことが挙げられる。

具体的な取り組みとして、中国銀行(BOC)が21年1月に、中国国外で世界初のCTFH に準拠したトランジションボンドを発行した事例が挙げられる。22年時点で、中国国内におけるトランジションボンドの発行額は1,319億元(196億米ドル相当)で、その規模は日本に次いで世界2位となっている。発行体は、石炭火力発電、化学等の産業が中心となっている。

一方で、中国のトランジション・ファイナンスは、CTFHや日本の「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」と比べて、「中長期的な科学的根拠のあるトランジション戦略」の要素が欠けているとされる。また、中国は23年11月末時点で、日本政府が策定している業種別のロードマップを策定していない。

ただ、中国のトランジション・ファイナンスの仕組みは、一部地域で試験運用を行い、その経験を生かして全国に適用していくことが想定される。この手法は、新制度の適用により生じ得るリスクが低減されるというメリットがあり、日本のトランジション・ファイナンスの発展の参考になり得よう。日本と共に中国のトランジション・ファイナンスが今後、どのような動きを見せるのか、注目に値しよう。

(野村資本市場研究所 宋 良也)

※野村週報 2023年12月11日号「資本市場の話題」より

<お知らせ>「野村週報」は、2023年12月18日号(15日発行)より「週間 野村市場展望」と統合し、新たな「野村週報」としてリニューアルされます。
今後ともご愛顧を賜りますよう、お願い申し上げます。

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