• 2023年も円安圧力が根強かったが、22年の円安とは重要な違いが存在
  • 日本発の円安圧力は既にピークアウト、米利下げを織り込み米ドル円は140円割れへ
  • 米国経済軟着陸成功時には1米ドル=140円前後が押し目買いの好機となる可能性も

2023年の米ドル円相場は11月半ば以降、上値が重くなっていますが、秋口には一時1米ドル=151円台まで上昇するなど、総じて円安米ドル高傾向が維持されました。

海外と日本の高水準の金利差が維持される中、24年の米ドル円相場についても、根強い円安圧力が予想されますが、23年の円相場の値動きにはいくつかの点で22年からの変化が見られました。具体的には、①アジア時間帯で進まなくなった円安、②経常収支黒字化と円需給改善、③改善し始めた交易条件、④日銀政策正常化の進展と日本の金利上昇、⑤「ボラティリティ低下=円安」との関係への回帰、といった変化です。

これらの変化は、日本発の円安圧力が既にピークアウトしている可能性を示唆しています。一方、海外と日本の大きな金利差に加え、米経済ソフトランディング期待を背景に市場心理が22年対比で改善、絶対的な金利差に着目したいわゆるキャリー目的での円売り圧力が海外投資家を中心に強まったことが、円安局面を長期化させたと考えられます。

この視点に立てば、24年に向けた円相場を占う上では、米経済のソフトランディングが実現するかが最大の焦点となります。市場では2024年に向けてFRB(米連邦準備理事会)に対する利下げ期待が高まっていますが、仮に米経済がソフトランディングを実現すれば、市場のリスク心理は安定しやすく、高水準の金利差が米ドル円を支える展開が続きやすくなります。1米ドル=140円前後が押し目買いの好機となる可能性が出てきます。

一方、野村が想定する24年後半の米経済マイナス成長シナリオに基づけば、24年後半に向けて円高米ドル安の動きは持続、130-135円方向に向けて一段の調整が予想されます。FRBの利下げが継続することに加え、市場の米景気楽観論が修正を迫られることで、市場ボラティリティは上昇・高止まりとなりやすいでしょう。金利差縮小に加え、ポジション調整を通じても円高圧力が強まりやすくなると予想されます。

日本発の円安圧力はピークアウト済みと見られますが、24年の円相場にとっては、日銀の政策正常化が進むかどうかも依然として重要です。日銀は23年7月会合でイールドカーブ・コントロール(YCC)の形骸化を進め、同年9月会合ではマイナス金利解除を含むより本格的な出口戦略議論を開始した可能性が高いと見られます。

23年9月会合における主な意見では「出口を見据えた市場や社会とのコミュニケーション等、出口に向けた準備、環境整備を進めることがリスク・マネジメント上、重要」との意見が見られました。実際、23年12月6日には氷見野副総裁がマイナス金利解除の各経済主体への影響に詳しく言及、市場とのコミュニケーションを図っています。日銀はマイナス金利解除に向け、着実に地ならしを進めているといえ、日銀は24年1月会合にもマイナス金利を解除、正常化をさらに進める公算が大きく、24年前半の円相場の支えとなりそうです。

23年7月及び同年10月の2回のYCC修正前後の円高が限定的だったことから、日銀引き締めの円高インパクトは限られるとの見方も強まっていますが、24年1月にも予想されるマイナス金利解除は、①海外金利上昇を受けた受動的なYCC修正とは異なり、海外金利低下局面での逆行的な引き締めとなる可能性、②長期や超長期金利ではなく為替市場にとってより重要な5年国債利回りを上昇させる可能性、などから円高インパクトが大きくなりそうです。特に、24年中の日銀追加利上げ余地は0.25%ポイント程度に限られるとの市場の見方が覆され、利上げ期待が高まった際には円高圧力が強まりやすいと考えられます。

米ドル円相場のドライバーとなってきた米日5年国債金利差は縮小方向への転換が明確化、米ドル円の下落につながりそうです。

アジア時間帯に円安米ドル高が進みにくくなっている点に象徴されるように、日本発の需給面の円売り圧力は既にピークアウトが明確になっています。実際、①原油価格ピークアウトによるエネルギー輸入の減少、②供給制約解消による輸出の堅調、③訪日外国人客の回復、などにより日本の経常収支は大幅な黒字が定着しました。秋口に一時、2014年以来の経常収支赤字化となった22年とは大きな違いと言えます。

22-23年と円安圧力の強い相場が続いてきましたが、24年は特にFRBの利下げ開始と日銀のマイナス金利解除が予想される年前半にかけて、円高圧力が高まる公算が大きそうです。米日金利差の縮小、キャリー目的での円売りポジションの取り崩し、円需給の改善、などが円高圧力として想定されます。米ドル円は24年前半には140円割れを試す展開となりそうです。

ただし、24年後半まで見据えた円高の持続性は米国を中心とした世界景気の強弱に大きく依存すると考えられます。米経済がソフトランディングに成功する際には140円前後が押し目買いの好機となる可能性もあり、年央に向けて米国を中心に景気動向を慎重に見極めることが重要になりそうです。

(野村證券市場戦略リサーチ部 後藤 祐二朗)

※野村週報 2024年新春合併号 「外国為替市場」より

※こちらの記事は「野村週報 2024年新春合併号」発行時点の情報に基づいております。
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