• 米国経済に減速懸念はあるが、イノベーション創出で米企業業績は史上最高益更新へ
  • 金融引き締めは終了し、2024年央以降に金融緩和が見込まれる
  • 企業業績を反映し、S&P 500 指数は史上最高値更新へ

野村證券では、米国の実質GDP成長率は、2022年の前年比+1.9%に対し、2023年は同+2.4%と見込んでいますが、2024年は同+1.3%、2025年は同+0.4%と、成長率の鈍化を予想しています。2022年3月以降、インフレ抑制のためにFRB(米連邦準備理事会)は積極的な政策金利引き上げを行ってきました。このため米国の金融環境(金利や株価、社債スプレッド、米ドル相場などを加味したもの)は景気抑制的である可能性が高く、緩慢な信用引き締まりもあり、短期的に明らかな引き金となる要因は見えないものの、米国の実質GDP成長率は2024年後半に前期比年率でマイナス成長となる可能性が高いと予想しています。

一方、S&P 500 指数構成企業の業績動向をみると、四半期EPS(1株当たり利益)の前年同期比増減益率は2022年10-12月期以降、減益となっていました。しかし、直近の2023年7-9月期には前年同期比増益に転じました。そして、2023年10-12月期以降、増益基調となると予想されています。

次に、年度ベースでの企業業績動向をみてみます。2023年については、年前半が前年同期比減益だったこともあり、前年比微増益とほぼ横ばいが予想されています。しかし2024年以降は、1株当たり利益は拡大が予想され、2025年にかけて、史上最高益を更新していくと予想されています。

米国経済については、2024年は成長率鈍化が予想されるにも拘わらず、米国企業の業績拡大が予想される要因としては、米国には独自の技術力やビジネスモデルで新しい製品・サービスを投入し、業容を拡大している企業が多数あることが挙げられます。そのような企業のイノベーション創出力が、業績予想に織り込まれていることが大きいと推察されます。

これまで世の中になかったような新しい製品・サービスが普及すれば、そのような製品・サービスを提供する企業の売上高や利益は、米国の景気動向の影響を直接的には受けずに、拡大していくことになります。

加えて、米国にはグローバルに競争力を発揮している企業が多くみられます。米国以外でも製品・サービスが普及すれば、そのような製品・サービスを提供する企業の売上高や利益は、米国景気とは直接的には関係なく拡大していくことになります。

イノベーションの事例として、生成AIが挙げられます。現在は、大規模言語モデル等の開発のためのデータセンターやクラウドサービスなどへの投資が盛んに行われていますが、将来的には生成AIを搭載した各種デバイスが市場に投入され、AIを活用した新しいサービスが投入されると予想されます。今後、人々の働き方や生活のスタイルを大きく変えると予想される生成AIは、社会への普及は一朝一夕では無理で、今後何年もかけて普及していく、息の長いものになると予想されます。

2024年は、実質GDP成長率でみた米国景気は必ずしも力強くはないかもしれませんが、生成AIのような成長機会を捉えることができる情報技術企業などが、米企業業績をけん引していくと予想されます。

次に、米国の金融政策についてみてみたいと思います。2023年12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、大方の予想通り、3会合連続で政策金利は据え置かれました。12月FOMCで示されたFRBの今後の政策金利見通しでは、2024年は3回、2025年は4回、2026年は3回、利下げをする可能性が示されました。

野村證券では、今後のFRBの金融政策については、2024年は、6月FOMCで0.25%ポイントの予防的利下げを行い、7月FOMCでは据え置いて、9月から3会合連続で0.25%ポイントの利下げを行い、合計4回、利下げを行うと予想しています。2025年については、会合毎に0.25%ポイント幅で計8回利下げを行い、2025年末の政策金利は2.25-2.50%と予想しています。

上記のような米国経済の動向と、金融政策の方向から、米長期金利(米10年国債利回り)について野村證券では、2023年末予想の4.20%に対し、2024年末は3.45%、2025年末は3.35%と、今後低下していくと予想しています。

米企業業績は過去最高益を更新していくと予想される一方、米長期金利は今後低下していくと予想され、2024年にはS&P 500 指数は史上最高値を更新すると予想されます。

リスクとしては、インフレが予想以上に長期化することが挙げられます。米国のインフレは足元で鎮静化しつつありますが、一段の鎮静化に予想以上の時間がかかると、金融政策に影響を及ぼし、米長期金利も影響を受ける可能性があります。

留意点としては、2024年11月に行われる大統領選挙における議会の状況について注意が必要です。仮にバイデン大統領が再選されたとしても、上下両院で共和党が多数派を占める「ねじれ状態」となった場合、政権の政策遂行能力が低下する可能性があります。その場合、例えば、財政協議が難航し、政府機関が閉鎖される可能性が再び高まる、といった事態になることも考えられます。

(野村證券投資情報部 村山 誠)

※野村週報 2024年新春合併号 「米国株式市場」より

※こちらの記事は「野村週報 2024年新春合併号」発行時点の情報に基づいております。
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