様子見姿勢のOPECプラス

 WTI(米国軽質原油)期近物先物価格が1バレル当たり70ドル近辺に上昇して来た。

世界の原油需要が回復して来たことと、原油需要の回復が継続するとの市場参加者の期待が原油価格の支えとなっている。また、OPEC(石油輸出国機構)と非OPEC主要産油国で構成されるOPECプラスが協調減産の減産幅縮小の検討を先送りしたことも影響していよう。

 欧米で新型コロナウイルス用のワクチンの接種が進み、新規感染者数が減少してきた。このため、欧米では徐々に経済活動の制限が緩和され、夏の行楽シーズンにドライブ用ガソリン需要が高まることが期待されている。OPEC とIEA(国際エネルギー機関)は、ワクチンの効果を前提に、原油需要の回復見通しを堅持している。

 他方、原油需要の回復を予想しながらも、OPECプラスが8月以降の協調減産幅縮小の検討を先送りした。6月1日に開催されたOPECプラス閣僚会合では、8月以降の減産幅縮小を検討することが予定されていた。しかし、イラン核合意立て直しの交渉が始められたことが障害となった。核合意が復活し、米国の対イラン経済制裁が解除されると、制裁で原油の減産を余儀なくされていたイランの増産が可能となる。このことが警戒され、OPEC プラスは8月以降の生産方針の検討を見合わせ、様子を見ざるを得なくなったと推察される。

 ただし、イラン核合意立て直しの交渉の見通しは不透明で、イランが増産できないままとなる可能性も残っている。このため、原油市場参加者はイランが原油を増産することを警戒しつつも、原油価格を押し上げ、WTI価格は1バレル当たり70ドル近辺まで上昇する展開となった。

先行き原油価格は上値の重い展開へ

 本稿執筆時点では、イラン核合意立て直し交渉の結論は出ていない。ただし、同合意が復活してもしなくても、原油価格の上値が重くなることが想定されよう。

 IEA の予想に基づいて、OPEC プラスが7月に合意済みの生産枠を順守し、8月以降に増産をしなかったと仮定して試算すると、今年の10~12月期に世界全体の原油需給は、日量200万バレル強の供給不足になる可能性が導かれる。したがって、イランが原油を増産するようなことがなければ、OPEC プラスが今年後半に日量200万バレル程度を上限に追加増産を行っても、需給が緩むことは避けられ、原油価格は支えられると見込まれる。

 現在はOPECプラスの減産幅縮小検討見送りで原油価格に上昇圧力がかかっている。したがって、イランの増産がなくなり、OPECプラスが増産を決めると、原油価格はやや調整する可能性があろう。WTIは1バレル当たり70ドルを超えて安定することは困難で、60ドル台で推移しよう。

 逆にイラン核合意が復活し、イランが原油を増産するようになった場合には、原油価格にやや強い押し下げ圧力がかかる可能性がある。米国の経済制裁によって、イランは日量200万バレル弱の減産を余儀なくされたため、制裁が解除されるとイランは日量100万バレルを超えて増産することが考えられる。仮にそうなった場合、世界の原油需給が緩まないようにするためには、OPECプラスは僅かな増産にとどめなければならない。しかし、原油価格を維持するために、OPEC プラス各国がイランの増産を許容することには反発が生じよう。また、減産を余儀なくされていたイランが、OPECプラスの協調減産に参加して、増産を抑えることも考え難い。

 イランが原油を増産できるようになった場合、このようにOPECプラス全体で増産圧力が強まることがあり得よう。OPECプラスはイランの原油増産の可能性を警戒し、8月以降の生産方針の検討を見合わせているが、イランの増産が決まると、結果的に原油価格にやや強い押し下げ圧力がかかると見られる。更に、この過程でOPECプラスの協調が崩れた場合には、原油価格は大きく下振れることもあり得よう。

 イラン核合意立て直し交渉の結論が出ず、OPECプラスが様子見姿勢を維持している間、原油価格は支えられるものの、イラン核合意が復活し、原油価格が下振れるような事態になるかどうかに警戒を要しよう。

(大越 龍文)

※野村週報2021年6月14日号「焦点」より

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