日本政府・日銀は「2%の物価安定目標」の達成を目指しています。また、直近の日本株高の背景には、「日本経済のデフレ体質からの脱却への期待」があるとの見方もあります。なぜ、日本の政策当局はインフレを目指し、なぜ市場はそれを評価しているのでしょうか。

結論を一言でいえば、「適度なインフレが効率的な資源配分に寄与する」と考えられているからです。デフレの世界では円安や原油高などによる原材料コストの上昇を販売価格に転嫁することは容易ではないことから、企業の業績が悪化する、あるいは、業績悪化を回避するために人件費など、その他のコスト削減によって対処されることが想定されます。雇用や給与などの人件費の削減は、家計の購買力を低下させ、更に値上げを難しくさせる、あるいは値下げ圧力を高める悪循環に陥りかねません。

一方、インフレの世界では原材料コストの上昇を販売価格に転嫁することが比較的容易であることから、デフレ下で懸念されたような業績悪化や、賃金と販売価格の悪循環に陥るリスクが小さいため、デフレ脱却期待が市場の評価につながっていると考えられます。日本経済の状況を振り返ってみると、1990年代初頭のバブル崩壊後、日本経済は雇用・設備・債務の「3つの過剰」を抱え、成長力が低下し、デフレに陥ったと考えられています。実際に、企業は人件費抑制を優先し95年前後には「就職戦線は氷河期」と言われ、98年前後からは「リストラ」と言った言葉が蔓延しました。債務の過剰が転換点を迎えたのは、大手銀行の国有化が決まった2003年前後、雇用・設備の過剰感が解消したのは2005年前後と見られています。

2010年代には売上の増加とともに企業の売上高営業利益率は大幅に改善した一方で、人件費は90年代末をピークに、横ばいから低下基調で推移してきました。

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日銀は政策目標に「賃金と物価の好循環」を掲げています。コロナ禍後のインフレ上昇に対して、昨年の春闘で約33年ぶりの高い賃上げが行われたこと、今年も昨年を上回る高い賃上げ率が実現する可能性が高まっていることは、日本経済の変化の象徴として、市場の評価につながっていると見られます。

ただし、高い賃金上昇率が持続するためには、それに見合う業績拡大が不可欠なことは論を待ちません。このため、「賃金と物価と成長の好循環」を続けていくことが、日本経済、ひいては日本株への市場の評価が継続するかの鍵を握っていると考えられます。

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