合成燃料とは

合成燃料とは、水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を合成し、ガソリンや灯油などと同じ成分にした石油代替燃料です。

合成燃料は、再生可能エネルギー由来の水素(グリーン水素)と、発電所や工場から回収したCO2などをもとに作られます。合成燃料も化石燃料と同様に燃焼時にCO2を排出しますが、燃料精製時にCO2を回収しているため、全体としては排出ゼロとなります。

(注)全てを網羅しているわけではない。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

運輸業界での合成燃料の活用が期待される

航空業界では、ICAO(国際民間航空機関)やIATA(国際航空運送協会)にて、船舶業界ではIMO(国際海事機関)にて、それぞれカーボンニュートラルに向けた議論が進んでいます。しかし、航空機や船舶は機体や船体が大きく長距離輸送を求められることから、電動化が困難だとされています。そのため、航空・船舶燃料の代替燃料として合成燃料の活用が期待されます。

また、合成燃料は既存の内燃機関や燃料インフラをそのまま活用できるため、導入コストを抑えることができ、自動車業界のEV(電気自動車)移行期における活用が期待されます。   

(注)全てを網羅しているわけではない。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

SAF(持続可能な航空燃料)の需要拡大が追い風に

航空業界では、持続可能な航空燃料(以下、SAF(注))の導入目標が定められています。SAFとは、化石燃料以外の原料から精製された代替航空燃料のことであり、バイオ燃料や合成燃料のことを言います。しかし、バイオ燃料は原料不足の懸念があることから、SAFの本命は合成燃料とされています。2023年5月、経済産業省は国内航空燃料の使用量のうち、10%をSAFに置き換える目標を掲げています。

また、各国・地域でもSAF導入の機運が高まっています。IATAは、2050年の世界のSAF需要量が4,490億リットル(2025年は80億リットル)に拡大すると予想しています。これらを背景に、合成燃料の効率的な製造技術の開発や原料調達、サプライチェーンに関連するビジネスを手掛ける企業の活躍が期待されます。

(注)SAFはSustainable Aviation Fuelの略。

(注)全てを網羅しているわけではない。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

ご参考:合成燃料関連銘柄の一例

・日揮ホールディングス(1963)

2030年までに合成燃料を製造する際に利用する触媒の量産を目指している。

・出光興産(5019)

北海道製油所で2020年代後半までに、自前で合成燃料の生産を目指している。2023年8月にアラムコ、ENEOSと合成燃料(e-fuel)に関する三者間MOU(基本合意書)を締結した。

・ENEOSホールディングス(5020)

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「グリーンイノベーション基金事業/CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト」に参画し、高効率な合成燃料製造技術の開発に取り組んでいる。2028年までに年間1.7万キロリットルの合成燃料の製造を目指している。2023年8月にアラムコ、出光興産と合成燃料(e-fuel)に関する三者間MOU(基本合意書)を締結した。

・三菱電機(6503)

日本特殊陶業らと共同でH2を用いることなく、CO2と水蒸気(H2O)から合成燃料を製造するSOEC共電解の実用化に関する研究開発を2023年12月に開始している。

・日立造船(7004)

船舶用エンジン燃料として使用可能な合成メタンを製造する装置を手掛けている。

・IHI(7013)

シンガポール科学技術研究庁傘下の研究機関であるISCEと共同で、CO2とH2からSAFの原料となる液体炭化水素を効率良く製造できる触媒やプロセスの開発を行っている。

・伊藤忠商事(8001)

JFEホールディングスや商船三井、HIFグローバルと共に、日本で回収したCO2を豪州に輸送し合成燃料を製造する際のコストなどを調査する。事業化できるか確かめ、2030年までの製造開始を想定している。

・丸紅(8002)

岩谷産業、関西電力、豪政府系電力会社のスタンウェルやシンガポールの政府系複合企業ケッペル・コーポレーションと共同で、2028年以降に合成燃料の原料となるグリーン水素の量産を目指す。生産量は世界最大級の年間26万トンまで順次拡大する。

・トタルエナジーズ(F0577/TTE FP)

2021年からドイツの製油所において、SOEC電解槽での合成燃料製造の実証事業を行っている。

・シーメンス(G0677/SIE XE)

ドイツの電機大手企業。ポルシェ、エクソンモービルと共に合成燃料を製造するプロジェクトを実施している。2022年12月からチリ南部で合成燃料の工場を稼働させており、2026年までに年間55万キロリットルに段階的な生産能力の拡大を目指している。

(注)全てを網羅しているわけではない。外国株式のコードは、野村コード/ブルームバーグコード。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成

(野村證券投資情報部 下斗米 孝文)

※画像はイメージです。

ご投資にあたっての注意点