日本企業の決算では、2024年度のガイダンス(業績見通し)の保守性が想定以上に目立ちましたが、一方株主還元の拡充も想定以上でした。2024年の年初来の自社株買い設定額は全上場企業ベースで9.0兆円に達しました(2024年5月21日時点)。配当性向の引き上げやDOE(株主資本配当比率)の導入、累進配当の導入など、株主還元の強化も目立ちます。東京証券取引所が上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」を求めたことを受け、各社の資本効率への意識が高まり始めたことを示唆しているとも言えます。

今回は、今期の1株当たり年間配当金予想を前期比で増配とした銘柄の中から、前期までに3期以上連続で増配している大型銘柄(TOPIX100構成銘柄)について、配当金(今期予想)が前期からどのぐらいの割合増えるかを示す「増配率」の順にランキングしました。

〈スクリーニング条件〉①銘柄母集団:TOPIX100構成銘柄②今期の1株当たり配当金の会社予想が前期比で増配③前期までに3期以上の連続増配の実績がある

(注1)年間1株当たり配当金予想は会社予想。
(注2)株価含む各種データは2024年5月28日時点。
(注3)MS&ADインシュアランスホールディングスは2024年4月1日を効力発生日として1:3の株式分割を行っている。前期1株当たり年間配当金は株式分割調整後の数値。
(注4)三菱商事は2024年1月1日を効力発生日として1:3の株式分割を行っている。前期1株当たり年間配当金は株式分割調整後の数値。
(注5)三井住友トラスト・ホールディングスは2024年1月1日を効力発生日として1:2の株式分割を行っている。前期1株当たり年間配当金は株式分割調整後の数値。
(注6)三井住友フィナンシャルグループは2024年10月1日を効力発生日として1:3の株式分割を予定している。今期予想1株当たり年間配当金は株式分割調整後の数値。
(注7)富士フイルムホールディングスは2024年4月1日を効力発生日として1:3の株式分割を行っている。前期1株当たり年間配当金は株式分割調整後の数値。
(出所)野村證券投資情報部作成

損保や商社、大手銀行などが上位にランクイン

1位にはMS&ADインシュアランスグループホールディングス(8725)、4位には東京海上ホールディングス(8766)と大手損保2社がランクインしました。金融庁は今年、「株式の持ち合い」が保険会社と顧客企業との間の不適切な依存関係の根幹にあると判断し、損保大手4社に政策保有株の売却を要請しました。これを受けて各社は、2030年頃を目途に政策保有株をゼロにする方針を示しており、政策保有株の売却が株主還元の拡充にも繋がっています。

また、2位には三菱商事(8058)、7位には伊藤忠商事(8001)と大手商社2社が入りました。大手商社では、好調な業績動向による営業キャッシュフローの改善に加え、資産売却による資金回収がフリーキャッシュフローを下支えする状況が続いています。財務体質の改善により、株主還元も拡充する動きが続きました。

3位には三井住友トラスト・ホールディングス(8309)、8位には三井住友フィナンシャルグループ
(8316)、9位には三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)と、メガバンクを含む大手銀行グループ3社がランクインしました。主要銀行の財務の健全性を示す普通株式等Tier1(CET1)比率は、利益の蓄積と有価証券評価損益の改善を主因に総じて上昇傾向にあります。利益環境の好転に加え、こうした資本基盤の充実を背景に、大手5社すべてが2025.3期の1株当たり年間配当金の増額予想を示すなど、株主還元の拡充が継続しています。

(野村證券投資情報部 デジタル・コンテンツ課)

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