※執筆時点 日本時間5日(金)12:00
今週:景気懸念が引き続き焦点に
※8月30日(金)-9月4日(木)4営業日の騰落
重要なマクロ指標が下振れ、株価は下落
軟調な経済指標の発表が相次ぎ、今週の米国株主要3指数は揃って下落しました。3日(火)に発表された8月ISM製造業景気指数は、総合指数が47.2と市場予想(47.5)を下回りました。また、5日(木)に発表された8月ADP雇用統計の民間部門雇用者数は前月比+9.9万人と市場予想(同+14.5万人)を下回りました。生産活動や雇用への懸念が広がり株価の下押し圧力となりました(執筆時点は6日(金)の8月雇用統計発表前)。 もっとも、5日(木)に発表されたISMサービス業景気指数は総合指数が51.5と市場予想(51.4)を上回り、米景気は全体で見れば依然として底堅いとの見方もできます。
市場の関心は「金利より景気」
米長期金利(10年国債利回り)が先週末の3.9%台から3.7%台に低下しましたが、金利低下は株価の追い風とはなりませんでした。米国株の主要3指数を比較しても、金利低下の恩恵を受けやすいとされるナスダック総合指数が他の2指標より大きな下落率となっています。引き続き、市場はインフレ鈍化(利下げ期待)より景気の方向感や企業業績を重視していると考えられます。
来週の注目イベントは3点です。
来週:アップル新製品発表会や大統領候補者討論会
①9日(月)にアップル新製品発表会
FRB(米連邦準備理事会)は7日(土)よりブラックアウト期間(金融政策に関する発言の自粛期間)に入るため、今週はFRB高官の講演等は予定されていません。また、FOMC(米連邦公開市場委員会)1日目となる17日に発表される8月小売売上高まで雇用・消費関連の重要指標の公表もありません。こうした中、9日(月)のアップル(AAPL)による新製品発表会へ関心が集まる可能性は高く、スペックや販売見通しなどが注目されます。
オンデバイスAIの普及が次の視点に
今回の発表会は、単にアップルの業績や株価を動かすだけでなく、オンデバイスAIの未来を考える上で市場の関心を集めています。オンデバイスAIとは、大規模言語モデル(LLM)を簡易化した言語モデルであるSLM(Small Language Model)をOSに搭載し、スマホやタブレット、PCなどデバイス側でAI処理を実行する技術を指します。SLMは、AIエージェントとして音声アシスタントや画像・映像処理、会話・文章の要約、アプリの実行などを担います。Chat GPTのような第1世代のLLMは、質問に対する回答を文章を通じて得る仕組みでしたが、オンデバイスAIに用いられるエージェント型の言語モデルは、アプリやユーザーデータに対する知識・検索能力を有し、アプリを駆使して回答を実行する点が進化のポイントです。また、高度な演算はクラウド側のLLMに橋渡しもできるようになるとみられます。
AI市場の成長性に加え、5日(木)に決算を発表したブロードコム(AVGO、5日の時間外取引で終値比6.73%下落。5日20:00時点)など、アップルを顧客とする部品メーカーへの業績寄与への影響が大きいため、注目の機会となりそうです。
②10日(火)に大統領候補者討論会
今週のもう一つの注目点は、10日(火)に予定されている大統領候補者討論会です。6月に開かれた討論会で精彩を欠いたことが、バイデン大統領が大統領選から撤退する契機となりました。民主党の大統領候補に指名されたハリス副大統領の支持率は、主要な激戦州でもトランプ前大統領を上回っている模様です。この討論会を経て、更に差を広げることができるのか、あるいはトランプ前大統領が巻き返すのか、注目されます。
③6-8月期決算スタート
その他、11日(水)には8月消費者物価指数と10年物国債入札も予定されています。前述の通り、景気に比べて物価指標の注目度は下がっていますが、沈黙期間中でもあり市場予想と大きく乖離する内容だった場合には、市場が動揺する可能性もあり目配りが必要です。また、9日(月)にオラクル(ORCL)、12日(木)にアドビ(ADBE)の2024年6-8月期決算発表が始まります。多くの主要企業が控える7-9月期決算の前哨戦として注目が集まります。
(編集:野村證券投資情報部 小野崎 通昭)