※執筆時点 日本時間11日(金)12:00
今週:CPIが重石
※10月4日(金)- 10月10日(木)4営業日の騰落
「インフレ鈍化」に疑問符
米国時間10日(木)寄り前に、9月CPI(消費者物価指数)が発表されました。前年同月比+2.4%と、総合指数は8月分(+2.5%)から伸び率が鈍化した一方で、市場予想平均(+2.3%)を上回りました。変動の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIは同+3.3%と、8月分(同+3.2%)から伸び率が加速し、市場予想平均(同+3.2%)を上回りました。
金融政策面では、10日(木)にアトランタ連銀のボスティック総裁が11月FOMC(米連邦公開市場委員会)で利下げを見送る可能性があると言及し、9日(水)のサンフランシスコ連銀のデイリー総裁による、年内に1回か2回の0.25%ポイントの追加利下げを支持するとの発言を追認する形となりました。市場は年内2回(11月・12月)の0.25%ポイント利下げを織り込んでいる中で、インフレの高止まりや利下げ後ずれと受け止められる発言が、株価の重石となりました。
インフレと景気の両睨みが続く
今後、10日(木)発表の新規失業保険申請者数が市場予想平均を上回ったように、雇用情勢が悪化して景気が減速する中でもインフレが長期化する可能性が強まる事態となると、スタグフレーション(インフレと景気停滞が併存)となることが警戒されるようになるかもしれません。
当面は、経済指標などで米国景気とインフレ動向をチェックし、状況を判断していきたいと考えます。
来週:決算発表シーズンへ
ここから1ヶ月は2024年7-9月期の決算発表シーズンになります。S&P500構成銘柄の8割程度が発表を予定しています。最初に大手の発表が集中する金融株の前回決算を振り返りましょう(執筆時点の日本時間11日12:00時点では、JPモルガンチェースは7-9月期決算未発表で、内容は4-6月期決算のものであることにご注意ください)。
トレーディング・投資銀行とも堅調、純金利収益は予想ほど減少せず
米国大手金融5社の2024年4-6月期決算は、純収益や収益、1株当たり純利益がそれぞれ市場予想を上回りました。各社ともトレーディングや、投資銀行部門の債券引受手数料が市場予想を上回りました。但し、ストレステストの結果や増配計画の発表を受け株価が決算発表前に上昇していたため、市場の反応はまちまちでした。
(注)決算発表は各社とも寄り前。純収益は、事業会社の売上高にあたる金利収益や手数料などから金利費用を差し引いた収益(JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティ・グループ)。EPS は非米国会計基準の一時的要因を除く調整後の希薄化後一株当たり利益。灰色の網掛けは株価騰落率がマイナスの場合、赤の網掛けは業績の実績が市場予想を上回った場合。企業や決算内容は全てを網羅しているわけではない。(出所)会社資料、LSEG、ウルフ・リサーチ社より野村證券投資情報部作成。
銀行部門を持つ3社(JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティ・グループ)の純金利収益は、市場予想ほど減少しませんでした。下段の左側の図に示されているように、3社の純金利収益は2023年10-12月期をピークに減少してきました。預金金利が貸出金利よりも遅れて引き上げられ、金利収益が先に増え、金利費用が追って増えたためです。今後についても、バンク・オブ・アメリカの2024年10-12月期の純金利収益見通しが市場予想をやや上回りました。
(注)米大手銀行3社は、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティ・グループ。データは四半期毎で、直近値は2024年4-6月期時点。予想は2024年7月23日時点のブルームバーグ集計による市場予想平均。2024年4-6月期の非金利収益は、ビザの種類株の転換に関する一時的要因による評価益を含む。
(出所)会社資料、ブルームバーグより野村證券投資情報部作成
ローンの貸倒額に注目
JPモルガン・チェースは、2024年12月期通期のカードローン貸倒率の見通しを、従来の3.5%未満から3.4%程度に引き下げました。経済のコロナ禍からの正常化に伴い、ローンの貸倒額は増加しました。純金利収益や貸倒額の状況は、金融機関の収益とともに、景気や金融市場の健全性の観点から注目されます。4-6月期の決算内容や見通しからは、急速にこれらが悪化するとの懸念はひとまず後退したと考えられます。
7-9月期決算発表の注目点
米国の銀行・証券株は年初来 S&P 500指数とほぼ足並みを揃えて上昇してきています。しかし、米国の金融当局が予想以上の利下げを実施する一方で、市場の純金利収益予想は高止まっている点には注意が必要です。また、足元でJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOはこれまで何度も市場のソフトランディングシナリオに警鐘を鳴らす発言を行っており、今回決算発表でも慎重な見通しを持っているとみられます。いずれにせよ、純金利、株式・債券などのトレーディング、投資銀行関連の収入を取り巻く環境を確認していきたいと考えます。
7-9月期決算発表を予定している銘柄
その他、決算発表を予定している銘柄は、ヘルスケアセクターで15日(火)のジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)、ユナイテッド・ヘルスケア・グループ(UNH)、半導体製造装置では16日(水)のASMLホールディング(ASML)、メディアセクターでは17日(木)のネットフリックス(NFLX)等があります。各業種へのインプリケーションを確認していきたいと考えます。
(編集:野村證券投資情報部 デジタル・コンテンツ課)