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米国の10年国債利回り(長期金利)は2024年9月中旬の3.6%台から足元で4.4%台へ上昇しています(24年11月19日時点)。上昇の背景には住居関連など足元のインフレ関連指標の一部に下方硬直性が見られることに加えて、大統領選挙、議会選挙で「トリプルレッド」、つまり大統領、及び上院と下院の過半数を共和党が占めたことにより、トランプ次期政権(トランプ2.0)で想定される政策が実施される可能性が高まり、インフレを押し上げるとの懸念があります。

トランプ次期大統領の選挙公約では、トランプ減税(個人所得税減税)の延長、法人税減税、残業代や社会保障給付の非課税化、関税の引き上げ、移民規制の強化など、景気を底上げし、インフレを押し上げる政策が多く掲げられています。CRFB(責任ある連邦予算委員会)によれば、2026~35年財政年度(前年の10月から当年の9月まで)の累計で、米国の連邦財政収支を7.5兆ドル悪化させると試算しています。野村證券は米国の消費者物価(CPI)の予想を、25年は前年比+2.8%(選挙前は同+2.3%)、26年は同+2.8%(同+2.3%)へと上方修正しました。

選挙後の米ドル円市場の初期反応は、こうしたインフレ上振れ懸念による長期金利の上昇により米ドル高円安となりました。今後も、トランプ次期大統領は「米ドル高円安は好ましくない」と発言する可能性があります。その際の市場の反応は米ドル安円高と想定されますが、長い目で見た場合、やはり「日米金利差」が大きな影響を及ぼすと考えられます。意図的な対応では為替市場のトレンドは変わらないと考えるべきです。1985年のプラザ合意により米国の根本的な貿易構造に影響を及ぼさなかった、との見方が有力です。ただし、あまりにも急速で、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)では説明が困難な水準へシフトした局面でのG7(主要7ヶ国・地域)による協調介入などは、トレンドを変える可能性はあります(ただし、その実現はかなり高いハードルです)。

前トランプ政権期(トランプ1.0:17年~20年)の米ドル円相場の推移を改めて確認すると(下図)、概ね日米5年国債利回り差に連動していることがわかります。勿論、金利差だけが決定要因ではなく、潜在成長力、貿易収支、財政収支なども影響しますが、やはり注目すべきは金利差と思われます。下図では日米インフレ格差を反映した「実質ベース」の金利差を示していますが、これは購買力平価における、相対的に高いインフレ率は通貨の減価要因である、との考えを考慮するためです。

(注)データは月次で、期間は2016年9月~2020年12月。実質利回りは5年国債利回り-消費者物価の前年比上昇率。
(出所)LSEG、ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

トリプルレッドになったからと言って、公約が順調に実行に移されるとは限りません。共和党議員にも左派があり、法案が順調に成立する保証はありません。経済関連の法案がある程度角を丸める形で成立すれば、FRBの利下げと伴に日米金利差は徐々に縮小し、ゆっくりと円高方向にシフトするものと予想されます。一方、法案がほぼ原案のまま通過した場合、インフレ再加速を「悪材料」として市場は改めて織り込み、米ドル安トレンドへ転換するリスクがあるでしょう。

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