• 経済の安定化に貢献すべき政治が国内外でむしろ経済の不安定性を高めかねない
  • 米国トランプ新政権による高関税の適用、減税の継続、移民送還、脱・脱炭素に注目
  • 日本経済では賃上げとソフトウェア投資を背景に、景気と物価の「国産化」に期待

2024年の日本経済は文字通り「激震」とともに始まりました。同年1月1日の「令和6年能登半島地震」です。このような甚大な災害とともに始まった24年においても、日本経済は多くの面で進展・改善を見ました。(1)値上げの継続、(2)賃上げの継続、(3)利上げの着手、(4)ソフトウェア投資の増加、(5)労働移動の増加、などはその一例でしょう。

一方、日本経済が新たな難局に直面しているのも事実です。(1)国内外の不安定な政治、(2)トランプ米国次期大統領の政策運営、(3)中国経済と政策対応、(4)地政学的な緊張の先鋭化、広範化、多極化の恐れ、などが例として挙げられます。本来、経済の安定化に貢献すべき政治が、むしろ経済の不安定性を高めかねない。これが25年の世界経済が直面する大きな課題といえるでしょう。

日本経済にも強く影響する米国経済は、大方の予想を裏切る形で堅調に推移しましたが、物価や雇用に一定の鈍化がみられます。こうした中、FRBは24年に約5年ぶりの利下げに転じました。野村では25年に1回(26年には2回)の追加利下げを見込んでいます。

利下げ局面に移行する中、米国経済の先行きは不確実性に満ちています。25年1月20日に発足するトランプ新政権の政策運営はその最たる例でしょう。

経済・通商政策の観点からは、トランプ氏の掲げる〔i〕高関税率の適用、〔ii〕減税策の継続、〔iii〕移民の強制送還、〔iv〕脱・脱炭素が特に注目されます。1点目の高関税率の適用は、輸入物価の上昇という経路で米国の物価に押し上げ圧力をかけ、同時に、物価上昇が経済主体の購買力を弱めることで米国の景気に下押し圧力をかける恐れがあります。2点目の減税策の継続は、米国景気を下支えする一方、物価には押し上げ圧力をかけると目されます。3点目の移民の強制送還は米国側に多額の財政コストが生じます。仮に実行されれば人権問題であり、なおかつ実行しようとすれば、米国側に多額の財政コストが生じます。仮に実行されれば、労働供給の減少によるインフレ圧力の強まりと、消費の減少による景気の下押しが警戒されます。4点目の脱・脱炭素は、トランプ氏が24年の大統領選中に使った「(化石燃料を)掘って、掘って、掘りまくれ!」 (Drill, baby, drill !) (ただし、この言い回しが最初に使われたのは2008年の共和党の選挙キャンペーン)という表現に表れています。同氏は、これによって化石燃料の生産量が増えるためインフレは抑えられると考えているようですが、実効性は不透明です。このように25年の米国経済は視界良好とはとても言えませんが、減税策の継続もあり、景気後退に陥る可能性は低いと見ています。

図表1: 米・ユーロ圏・英国は利下げ、日本は利上げ

(注1)米国はFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導レンジの上限。 (注2)日本は2016年2月15日までは無担保コールオーバーナイトレート、2016年2月16日以降は日銀当座預金の一部である政策金利残高の付利を図示(ただし2013年4月~2016年1月までは政策金利は存在せず、日銀当座預金残高という量的指標のみで金融政策が行われていた)。 (注3)ユーロ圏は預金ファシリティ金利。 (注4)英国はバンクレート。 (注5)データは日次で直近値は2024年12月18日時点。
(出所)ブルームバーグより野村證券経済調査部作成

一方、25年の日本経済については、一つ期待できることがあります。それは、景気の「国産化」とインフレの「国産化」です。しばしば日本の景気は輸出依存、インフレは輸入依存と評されますが、25年は両者の「国産化」が進む可能性があります。

第1に、賃上げに「同調性」が生じつつあります。ライバル会社が賃上げするなら、自社も賃上げするという機運が自社、ライバル会社いずれにおいても醸成され始めています。しかも25年はいよいよ賃金増のペースがインフレを上回る、つまり実質賃金の増加が見込まれます。第2に、ソフトウェア投資の増加です。設備投資が単なる輸出の派生物ではなく、人手不足という国内の課題へのソリューションとしての省力化、更には戦略上不可欠となるデジタル化によって誘発される局面となっています。ソフトウェア投資が22年頃から明らかな上昇トレンドを形成している姿にも、その一端を見ることができます。

図表2: じわじわと高まる賃上げの同調性

(注)2024年度の調査期間は2024年1月18日~31日。調査対象企業は全国2万7308社(有効回答は1万1431社)。
(出所)帝国データバンク「2024年度の賃金動向に関する企業の意識調査」より野村證券経済調査部作成

図表3: 増加トレンドを形成するソフトウェア投資

(注1)実質系列はSPPI(企業向けサービス価格指数)の「受託開発ソフトウェア(除く組込み)」の価格に基づく。 (注2)リンク係数による調整済み。 (注3)データは月次で、直近値は2024年9月。
(出所)経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」、日本銀行「企業向けサービス価格指数」より野村證券経済調査部作成

日銀も経済と物価が見通しに沿って推移(オントラック)していると評価しています。ただし、24年12月の金融政策決定会合後の会見における植田日銀総裁は、不確実性に対してより配慮する姿勢を示しました。とりわけ25年の春闘に関わる情報や賃金関連データを集めつつ、賃金増の確度を見極めたいとの姿勢が強く示されました。

植田総裁のこうした慎重姿勢を踏まえて、野村では日銀による次の利上げ時期を25年3月に遅らせました。25年10月、26年3月の追加利上げを経て、政策金利は現行の0.25%から1.0%に引き上げられると予想しています。

(野村證券経済調査部 森田 京平)

※野村週報 2025年新春特別号「内外経済展望」より

※こちらの記事は「野村週報 2025年新春特別号」発行時点の情報に基づいております。
※画像はイメージです。

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