• 24年に本邦投資家は積極的に米債投資の一方、一部は円債投資に様子見
  • 25年に本邦投資家は円債回帰の公算
  • 市場の一部には、日本10年国債利回り約1.2%で前向きに購入との見方

2024年における本邦投資家の債券投資を振り返ると、2023年に続き、積極的な米国債券(国債、モーゲージ債、社債含む)への投資が見られました。24年を通じて円安ドル高が進展、一部の投資家は為替リスクを取って米国債券を購入した模様です。筆者が面談した投資家からは、高いクーポンの米ドル建ての債券を為替リスクを負って購入すれば、今後数年の間に円高ドル安が進み日本円に換算した元本の価値が減少しても、クーポン収入がそれを相殺、損失を回避することができるのでは、との見方が聞かれました。このような考えも、一部投資家による米国債券への投資を促した可能性があります。

図表1: 本邦対外債券投資額 (14年1月以降の累計ベース、月次)

(注)データは月次で14年1月以降の累積ベース。プラスがネット購入、マイナスがネット売却。直近値は2024年10月。
(出所)日本銀行より野村證券市場戦略リサーチ部作成

一方、24年における日本国債への投資については、例年に比べ慎重な姿勢を示した本邦投資家もいました。例えば、超長期国債の主たる投資家である本邦保険会社による超長期国債純購入額は、例年を下回りました。日本銀行が24年3月以降、政策金利を引き上げる中、今後どの程度、利上げが進むのか、日本国債利回りが上昇(日本国債価格が下落)するのかを様子見したいとの考えも、慎重な姿勢につながったと考えられます。

図表2: 各国国債のイールドカーブ (外債については為替ヘッジ付)

(注)ヘッジコストは3ヵ月物為替フォワードレートから算出。2024年12月11日時点。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成

もっとも、25年には本邦投資家が円債投資に前向きになる可能性があります。そのように考える理由として、1)今後も、日本国債利回りは為替ヘッジ付きの米国国債利回りを上回る、2)円高米ドル安が進む、3)日本銀行による利上げ打ち止め期待から日本国債利回りの大幅上昇懸念が後退する、などの可能性があるからです。

このうち2)については、FRBは25年3月にも利下げを決定する一方、日本銀行は25年に追加利上げを実施と当社は見込んでいます。日米金利差縮小期待から円高ドル安が進めば、本邦投資家による為替リスクを取った米国債投資は、24年に比べ慎重になると予想されます。その分、余剰となった資金が円債市場に向かう可能性があります。

3)に関しては、25年中に日本の利上げ打ち止め時期が近いとの見方が高まれば、市場では、日銀に対する追加利上げ期待が後退、本邦投資家の国債利回り上昇(国債価格下落)懸念を後退させ、日本国債への投資に前向きになると予想されます。日本の政策金利が、名目中立金利(インフレ率を押し上げも押し下げもしない金利)の下限と目されている1%に近づくにつれて、日本10年国債利回りの上昇は緩やかになり、日本10年国債への需要が高まる可能性があります。

図表3: 2年先翌日物フォワード金利と日本10年債利回りとの関係

(注)2年先翌日物フォワード金利は筆者算出。2023年6月以降の日次データで直近値は2024年12月12日。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成

一部の本邦投資家から、日本10年国債利回りが約1.2%となれば日本10年国債を買いたいとの考えも聞かれます。背景には、先行きの利上げ期待がさほど高まらないとの見方が根強いこともあります。

日本10年国債利回りは、日本のOIS(翌日物金利スワップ)市場から計算される2年先翌日物フォワード金利、すなわち、市場が織り込む2年後の日本の翌日物金利(≒政策金利)への期待と高い相関関係にあります。最近の傾向を踏まえると、例えば、日本10年国債利回りの約1.4%への上昇には、同フォワード金利が約1%、すなわち、約2年後に政策金利が約1%へ上昇との織り込みが必要です。

図表4: 日本のOIS市場から導出される翌日物フォワード金利(%)

(注)イベントは全てを網羅しているわけではない。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部算出

しかし、最近の市場は、日本銀行が約1%へ政策金利を引き上げる時期を、今から5年以上先と織り込んでいます。この期待が、今から約2年後に前倒しされるには、日本の賃金上昇率の大幅な上振れ、急激な円安ドル高などが必要であり、そのような事象が発生するのか、懐疑的な見方も存在します。2年先翌日物フォワード金利が約0.9%への上昇に留まれば、日本10年国債利回りの上昇余地は約1.2%までとの見方も可能です。一部の投資家は、日本10年国債利回りが約1.2%となれば、投資に前向きになる可能性があると言えます。

尚、25年に本邦の一部機関投資家は、ユーロ圏諸国の債券投資に前向きになると予想されます。24年6月に利下げを開始したECBは、雇用、インフレの下振れを懸念し、当面利下げを継続すると見られます。債券価格の下落リスクを抑えながら一定の純金利収入を確保する上で、為替ヘッジ付き欧州債投資は選択肢となる可能性があります。

(野村證券市場戦略リサーチ部 岸田 英樹)

※野村週報 2025年新春特別号「内外債券市場」より

※こちらの記事は「野村週報 2025年新春特別号」発行時点の情報に基づいております。
※画像はイメージです。

ご投資にあたっての注意点