※執筆時点 日本時間1月10日(金)12:00
今週:AI普及の期待感高まるも金利上昇が重石
※1月3日(金)- 1月8日(水)3営業日の騰落
AI普及拡大への期待が株価を押し上げる場面もありましたが、米長期金利(10年国債利回り)上昇が重石となりました。
5日(日)に公表された鴻海精密工業の2024年10-12月期の売上高とその後の業績見通しが良好だったことや、米国ラスベガスで開催される世界最大のテクノロジー見本市「CES2025」の基調講演に登壇するエヌビディアのジェンスン・ファンCEOへの期待感などから週前半はテクノロジー株が株価をけん引しました。しかし、トランプ次期大統領が関税政策をこれまでの発言通り実行する旨の発言があったことなどから、インフレ再燃懸念が広がり米長期金利は前週末の4.5%台から4.6%台へと上昇し、株価の重石となりました。(編注:執筆時点は10日(金)の12月雇用統計の発表前)。
追加関税の米国株への影響はどの程度か
1月20日にトランプ新大統領が就任します。野村では、新政権が重視する政策の一つである追加関税によって米国株が受け得る影響を分析した結果、一定の仮定の下ではEPS(一株当たり利益)が4年間で数%~20%程度押し下げられると試算しています。
関税政策の米国株式市場への影響としては、2つの経路が考えられます。1つが①輸入物価上昇などコスト増加を通じて関税対象国からの原材料・部品調達の多い銘柄を中心に株価が下落する影響、もう1つが②景気減速懸念を通じてシクリカル銘柄を中心に株価が下落する影響です。
第1次トランプ政権では②の影響が中心でした。一方、関税の主な対象が中国の一部品目に留まったこともあり①については大きな悪影響は観察されませんでした。ただ、第2次トランプ政権では中国に対する大幅な追加関税や、中国以外も含めた全世界に対する追加関税の可能性も懸念され、いずれの経路も想定しておく必要があります。
ブルームバーグの市場予想では、2025年10-12月期EPS(一株当たり利益)が前年比+16.6%となることが予想されています。この予想にどこまで関税の影響が織り込まれているかは定かではありませんが、米大統領選挙以降、米国株が総じて堅調であることを踏まえれば、現在の市場は楽観的(関税の影響はない)と推察されます。次の2つのシナリオにおける野村の試算は以下です。
Ⅰ.対中で+40%ポイントの追加関税が課された場合
②の影響が大きくなりますが、第1次トランプ政権と同様に①が主な経路となるため影響は限定的で、EPSが4年間で4.7%ポイント押し下げられる計算です。この場合、年あたりで見れば増益基調は維持されるとも考えられます。
Ⅱ.「Ⅰ」に加え、対世界で+10%ポイントの追加関税が課された場合
上記に加え①の影響が大きくなり、EPSが4年間で20.8%ポイント押し下げられる計算です。複数年にわたって増益率が大きく下振れる可能性が警戒されやすくなります。
こうした試算は仮定に基づくものであるため、実際に影響がどの程度生じるか不透明感は高いものの、関税の対象が広がる場合には一旦は米国株の下落リスクに注意が必要となると想定されます。
来週①:15日(水)の12月CPI
米長期金利が再び上昇しており、その動向には引き続き注意したいと考えます。経済指標では12月CPI(消費者物価指数、15日)が注目されます。
12月コアCPI(食料・エネルギー除く)の市場予想は前月比+0.2%(11月同+0.3%)と、減速が予想されています。前回11月分では自動車が大きくプラスに寄与しました。今回については、先行指標の中古車価格が減速していることから、自動車のプラス寄与は一旦縮小すると想定されます。一方、前回11月分では家賃が大きめに減速し、新型コロナ危機以前の伸びにまで戻りました。今回12月分では反動が生じる可能性もあります。サービスに先行する傾向のある中小企業販売価格計画DI・人件費計画DIはここ数ヶ月上昇しており、家賃やサービスが再加速すれば、12月分は市場予想を上回ることも考えられます。
来週②:10-12月企業決算が本格化
米主要企業の2024年10-12月期決算の発表が本格化します。金融がスターターとなり、15日(水)のJPモルガン・チェースやゴールドマン・サックスなどに注目が集まります。発表された際には、会社業績見通しや経営陣の事業環境に関するコメント等から、今後の業績動向を見極めていきたいと考えます。
また、20日(月)のトランプ氏の大統領就任が近づき、次期政権での政策についての情報発信が一段と活発化することも考えられ、留意したいと思います。
(投資情報部 デジタル・コンテンツ課)