資源分野は市況が大きく上昇

 商社セクターの事業環境は2021.3期下期から大きく改善している。特に資源分野では、新型コロナウイルス(以下コロナ)の感染拡大による経済活動の鈍化を背景とした需要の落ち込みで、20年前半は商品市況全般が弱含んだ。

 一方で、20年後半からは、資源の需要国である中国が他国に先駆けて景気が回復したことで、鉄鉱石や銅といった市況が上昇基調となった。21年に入って先進国でのコロナワクチンの接種が進んだことで、資源全般の需要が回復している。需要面での強含みに加え、資源生産国である新興諸国ではワクチン接種が先進国に比べて遅れていることが供給面で制約となっている。実際にコロナの感染対策をしながらの操業で生産効率が上がりにくくなっており、資源需給の引き締まりが幅広い資源価格を押し上げている。中国と豪州の摩擦から中国が豪州から石炭の輸入を規制したことで、低迷していた石炭価格についても、5月以降は中国以外の原料炭需要の回復もあって、大きく上昇するなど、資源分野の事業環境は良好である。

非資源分野も幅広い分野で回復

 非資源分野についても、21.3期上期はコロナの影響による需要の落ち込みにより、全般的に業績が悪化したが、下期から回復傾向が続いている。足元でも、小売りや繊維事業など一部の事業領域ではコロナの悪影響が残っているが、米国や中国の景気が回復基調となっていることで、自動車や化学品、食品事業など幅広い分野で事業環境が良化している。

 コロナの影響で幅広い分野で需要が落ち込んだことで、21.3期上期はメーカーや物流業者が供給量を絞り込んだが、下期からの需要の急回復により、様々な事業領域で需要超過の状況となっている。こうした環境下、幅広い商品価格が上昇しており、商社のトレード事業は販売マージンが上がりやすい状況となっている。実際に、22.3期第1四半期の決算でも、各商社の非資源分野の業績が、部門によってはコロナ感染拡大の前の水準を上回る利益水準となる状況も散見された。

追加的な株主還元への期待が高まる

 好調な事業環境により、商社セクター各社の22.3期第1四半期の親会社株主利益の期初通期計画に対する進捗率は42~49%と高い水準となるなど各社の業績は大きく改善している。好調な業績動向を背景に、三井物産は第1四半期決算時に通期の利益計画を上方修正するとともに、500億円を上限とする自社株買いを発表するなど、株主還元策を拡充する動きも出ている。従来から各商社は下限配当や累進配当方針の導入や機動的な自社株買いなど、株主還元策を拡充してきた。他商社についても、業績の好調さを背景に増配や自社株買いへの期待値が高まりやすい点には注目している。

 個別企業では、これまで石炭市況の低迷や、強みを持つ自動車や化学品などの分野でのコロナの悪影響などもあって業績動向で見劣りしていたが、事業環境の良化の恩恵を大きく受ける三菱商事の投資魅力が高いと考えている。また、鉄鉱石市況の高止まりによる業績の改善に加え、積極的な自社株買いを実施している三井物産の投資魅力についても高いと考えている。

中期的には環境問題への対応が課題

 中期的な商社業界のテーマとしては、脱炭素への対応が挙げられよう。商社は石炭や原油、液化天然ガスなど、資源関連事業に加え、火力発電事業など、温暖化ガスを多く排出する事業を手掛けている。脱炭素化の流れの中で、燃料用の石炭事業や、石炭火力発電事業から撤退する動きが加速している他、再生可能エネルギー事業への投資が拡大している。各商社では、燃料アンモニアや水素といった次世代エネルギーへの取り組みも始まっている。こうした次世代エネルギーへの転換期に際して、新たな収益源として事業機会を活かせるかには注目したいと考えている。

(成田 康浩)

※野村週報2021年8月16日号「産業界」より

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