フードテック業界への投資が加速している。米国の投資会社AgFunder によると、アグリテックを含む同分野の世界のスタートアップの資金調達額は、2014年に64億米ドルであったが、年平均26%で増加し、20年は261億米ドルとなった。

 中でも、フードテック業界で昨今注目を集めている分野の1つに「アップサイクル」がある。アップサイクルとは、持続可能なものづくりの新たな方法論の一つで、単なる素材の原料化や再利用ではなく、元の製品よりも付加価値の高いモノを生み出すことを最終目的とする点で「リサイクル(再循環)」の概念とは異なる。

 当分野が注目される理由の一つに、SDGs(持続可能な開発目標)が掲げる「飢餓をゼロに」等の解決がある。FAO(国連食糧農業機関)の11年報告書では、世界の食品廃棄量は年約13億トンで、食用に生産された食料の3分の1に相当する。

 アップサイクル分野は20年頃から、スタートアップを中心に様々な製品が上市され始めた。例えば、米国のRIND社は皮付きのドライフルーツを開発している。果物の皮は、果物に比べて約3~4倍の食物繊維や抗酸化物が含まれているが、最も廃棄される生ゴミとなっている。同社は「健康的な」アップサイクル製品を開発するとともに、20年に約54トンもの食品廃棄物の削減に寄与した。また、同様に米国のAmbrosia社は、家庭から排出される生ゴミや汚水から有用成分を抽出し、洗剤としてアップサイクルした。同社は17~18年のシードラウンドで計550万米ドルを調達し、20年に家庭用液体洗剤「veles」を上市した。一般的な液体洗剤の約9割が水を原料としており、同社製品が拡がることで、膨大な量の水の節約にも寄与する。

 黎明期を迎えつつあるアップサイクルだが課題も多い。例えば、原料として使用できる量が限られ、かつ加工の手間が多いため製造コストが嵩んでしまう。製品価格が高く、現状は“エシカルな”消費者層に依存している。事業者は製造コストの削減に向けた更なる技術開発に取り組むと同時に、継続的な啓蒙活動も必要となる。

 SDGs の17の目標制定から6年を迎え、消費行動に大きな“うねり”が生じ始めた。食品ロス削減に直結するアップサイクルの動向に注視したい。

(鈴木 拓実)

※野村週報2021年9月20日号「アグリ産業の視座」より

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