22年半ばに1 ドル115円までの円安へ

 米連邦準備制度理事会(FRB)は9月連邦公開市場委員会(FOMC)で一段とタカ派(物価安定重視)化し、11月には金融政策正常化の第一歩として、テーパリング(資産購入縮小)開始を決定する可能性が高まった。2022年中の利上げ開始の可能性も残された。FRBタカ派化を受け、米国債5年金利は新型コロナショック後初めて1%台を記録し、為替市場でドル高圧力を強めている。ドル円相場は1ドル113円台を回復、18年12月以来の水準まで上昇した。

 FRBが想定以上にタカ派化、ドル高圧力を強めていることを考慮し、野村ではドル円及びG10通貨見通しを10月8日付で全般的にドル高方向に改定した。

 日本の国内面では、菅首相退任、岸田政権発足というサプライズがあったが、ドル円相場にとっては、FRBのタカ派化が進んだことがより重要である。円相場は元来、米国金利への感応度が高い通貨だが、足元では特に①米5年金利、②2~3年先にかけての米利上げ期待、との連動性を高めている。ドル円相場上昇の持続性を占う上では、FRBのタカ派化に対し、米国を中心とした金融市場が耐性を見せるかどうかが重要となるが、米経済の腰折れリスクが低い中、一段の円安ドル高の可能性が高い。12月末のドル円予想を1ドル113円(旧:112円)、来年3月末の予想を114円(旧:113円)へと上方修正している。

 来年半ばには1ドル115円までの円安ドル高と、従来想定よりも早いタイミングでの115円到達を見込むが、22年末の見通しは115円を維持する。22年末には、FRB による利上げ開始が視野に入っていると見られるが、過去の例を振り返ると、利上げ開始に前後して、ドル円相場は利益確定などで調整する傾向が見られる。来年後半には円安ドル高ペースが少なくとも一旦減速する可能性を意識しておく必要があろう。

 1ドル115円を大きく超える円安ドル高が実現するかを考慮する上では、①日本当局の円安けん制姿勢、②主要国の金融政策正常化開始後の世界景気、③FRBによる利上げ到達点の切り上がりの可能性、などを確認する必要がある。これらの要因を注視しながら、円安ドル高の余地を来年央に向けて見極めたい。

ユーロ・豪ドルは対円で22年に反発へ

 昨年3月の新型コロナショックを底に、ユーロは対ドルで21年初まで上昇傾向だったが、足元20年7月以来の低水準まで調整した。対円でも6月1日の134円台をピークに、ユーロ安円高に転じている。

 7月半ば以降のユーロは1ユーロ130円前後で推移しており、過去3カ月程度のユーロドル下落の主因はドル高にあるが、ユーロ側の要因としては、①世界経済の回復ペース鈍化への懸念、②ユーロ圏経済サプライズ指数の低下、③欧州中央銀行(ECB)のインフレ目標及びフォワードガイダンス(先行き指針)変更を通じたハト派(景気重視)化、④独総選挙に向けて緑の党躍進とそれに伴う財政支出拡大への期待の剥落、といった逆風がユーロ安要因となった。これらの逆風の一部は足元で和らいでいるが、完全には止んでいない。

 また、年末に向けては、FRBが一段とタカ派化する可能性があり、ユーロドルにとっては逆風になろう。ユーロは世界的な株安など、いわゆるリスク回避が進んだ際に対ドル、対円で下落する傾向もある。FRBのタカ派化に対し、短期的には円以上の脆弱性を見せるリスクがあろう。

 22年末に向け、ユーロ高ドル安に転じるとの見方は維持するが、21年末のユーロドル予想を1ユーロ1.15ドル(旧:1.22ドル)へ下方修正する。22年末には1.22ドル(旧:1.26ドル)までのユーロ反発を見込む。ユーロの対円相場は、12月末予想を130円(旧:137円)と、年末に向けてレンジ相場の継続を予想するが、年明け以降は円安圧力が再び高まると予想する。

 FRBのタカ派化を機に進行しているドル高や中国経済減速懸念は豪ドルにも逆風となっている。しかし、豪州準備銀行が金融政策正常化に着手していること、中国景気の腰折れは回避されると予想されること、から来年には豪ドルも対円で回復基調に回帰しそうである。12月末の豪ドル円見通しを1豪ドル82円(旧:84円)に下方修正するが、22年末には90円前後まで上昇する可能性が高いだろう。

(後藤 祐二朗)

※野村週報2021年10月18日号「焦点」より

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