300mm ウエハの需要は中長期でも拡大
半導体市場は5G(第5世代携帯通信)などスマートフォン(以下スマホ)の高度化や自動車の電装化に伴う一台当たりの半導体搭載量の拡大、クラウドサービスを含めたデータセンター向け需要の増大などにより今後も中期的に拡大が期待できる。300mm ウエハ需要についても、スマホやデータセンター向けの拡大に加え、車載用ウエハの300mmへのシフトも予想され、今後も中期的に年率5%程度の成長が続くと野村では予想している。また、半導体ウエハメーカー各社の投資規律は高く、中期的にも90%超の稼働率が続くと予想する。
一方、SUMCO などの半導体ウエハメーカーは300mmウエハのグリーンフィールド投資(建屋やユーティリティー設備などがない更地からの投資)を発表している。これに対して建物などがすでにあり、機械設備を追加する能力増強(ブラウンフィールド投資)の発表も出つつある。これらの増強投資により、株式市場の一部には、需要を大幅に上回る供給増で、価格競争が激化するという懸念が生じている。ただし、2008年の金融危機以降において、ウエハ業界では再編が進んでおり、ウエハメーカーの顧客に対する価格支配力が高まっていることなどから、野村では価格競争が激化する可能性は小さいと考えている。多くのウエハメーカーはグリーンフィールドからの能力増強を行う際に、早期の投資回収を可能にするために顧客との間で販売価格を引き上げる形での長期契約を結ぶ方針をコメントしている。SUMCO に関しても、9月30日に発表した能力増強について、経済合理性のある販売価格と従来の長期販売契約(2~3年)よりも長い契約(野村では5年程度と推定)に応じた顧客に対して使用(生産・販売)するとしている。
なお、SUMCO は19.12期からの能力増強投資(投資発表は17年)において、その後ウエハ需要は伸び悩んだ際にも、顧客と締結した長期契約価格は堅持されている。ウエハ需要は構造的な成長を野村では予想しているが、半導体材料の在庫調整などで短期的にウエハ需要が伸び悩む局面もあり得るだろう。一方、そうした際も中期契約での販売価格は維持できると考えている。
200mmウエハも需給引き締まりが続こう
200mm ウエハは現状、自動車や産業機械用などに使用されている。一方、200mm半導体は半導体メーカーにとってコスト効率が総じて低い点や200mm 半導体用の製造装置の開発や生産も積極的に行われていないことなどがあり、主たる半導体メーカーやウエハメーカーの能力増強計画が非常に乏しい。需要に対して供給が締まった状況が中期的に続くと予想される。
信越化学工業とSUMCO はそれぞれ300mm ウエハで推定世界シェア32%、24%(20年度の生産能力ベース)を誇る。この2社は300mmウエハで5~7ナノなど微細化半導体向けのウエハなどハイエンド製品に強いという特長を持つ。スマホの高度化によるロジック半導体向け等の需要拡大は続くと野村では考えており、中期的にも日本のウエハ2社の業績拡大が期待できよう。加えて、200mm ウエハは能力増強が限定的で、需給の引き締まりが持続し、堅調な業績に貢献しよう。
(岡嵜 茂樹)
※野村週報2021年11月8日号「産業界」より