(野村證券エクイティ・リサーチ部 増野大作)

情報・通信業 – 総合力強化が次の高収益モデルを支える

 コミュニケーション社会のインフラ基盤を構築する情報・通信業界。安定的で高い収益力を誇るビジネスモデルを「総合力」でさらに高めていく業界の今後について、増野アナリストに解説いただいた。

増野アナリストの注目銘柄

日本電信電話 (9432)
KDDI (9433)
ソフトバンク (9434)

鍵を握るのは料金競争と法人事業

 日本の通信業界は日本電信電話(NTT、9432)KDDI(9433)ソフトバンク(9434)の3社が牽引しています。各社は、5Gなどの技術革新に対応するとともに、災害等の緊急時においても、高速で安定的な通信の確保のための基盤構築を進めてきました。まさに、現代のコミュニケーション社会になくてはならないインフラ業界だといえます。

 通信業界を事業特性から見ると、誰もが必ず利用する究極のサブスクリプションモデルであり、各社は、この強固なストック収入によって安定的な収益とキャッシュフローを生み出せています。株主還元にも積極的で、インカムゲイン重視の個人投資家にとっては配当水準の確認も重要と思われます。

 このように安定性の高い事業構造を実現している通信キャリア各社ですが、業績に変動を与えるファクターがまったくないわけではありません。それは3点あります。

業績変動ファクターから2020年度業績を振り返る

 1つ目のファクターは、料金競争です。業界の主たるプレーヤーが4社だけなので、いったん料金競争になると激化しやすい環境となっています。2020年後半、官邸主導の料金値下げ要請がありました。この際は、各社が順に格安プランを発表したことで、株価も横並びで急落してしまいました。料金競争は、株価形成におけるリスクファクターとして注視する必要があります。

 2つ目は法人向けビジネスの動向です。コロナ禍による在宅勤務対応などで、企業向けネットワーク関連市場が活況を呈しており、各社ともに法人事業の売上、利益が順調に伸びています。しかも法人需要の拡大は、今般のコロナ禍による一過性のものではなく、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展などを背景に今後も期待できると思われます。法人需要をいかに取り込んでいくかが、成長の鍵と考えられます。

 業績に変動を与えるファクターの3つ目は、グループとしての「総合力」です。これは今後、中長期の業績に影響をもたらす要因です。

 例えば、ソフトバンクは、2021年3月に傘下のZホールディングスとLINEとの経営統合を行いました。NTTも、NTTドコモなど3子会社を2022年1月に経営統合すると発表しました。このように再編の流れが活発化しています。継続して安定的な収益を上げるために、さまざまなサービスやコンテンツを融合させて1つの事業体を形成する必要性の表れだといえるでしょう。

 2020年度は、この3つのファクターのうち料金競争の激化と法人向けビジネスの伸長という2つが顕在化しました。実際の各社への影響を見てみましょう。

 まず、料金値下げの影響により、各社減収減益の予想がありました。実際には、法人事業の利益が拡大し、通信事業以外の電気、金融、端末の保険などほかの事業利益を伸ばしました。さらに、販売や社内システムの効率化などといったコスト削減により、結果的に各社とも増益を達成できていました。

社会に変革を促すNTTの挑戦

 次に、2022年以降の各社の動きを個別に見ていきましょう。

 NTTは、足元を見るとNTT東西やNTTデータ(9613)の利益が拡大しており、海外事業の構造改革も進展しています。さらに2024年3月期までの中期財務目標の上方修正や、NTTドコモ100%子会社化による営業利益シナジー効果の創出など、攻めの姿勢を公表しています。

 新たな中期財務目標では、1株当たり利益を370円、コスト削減1兆円以上などを公表しました。グループ再編の効果では、2024年3月期までに営業利益ベースで1000億円の、2026年3月期までに2000億円のシナジーを目標に掲げており、「総合力」強化へ加速し始めています。

 注目はサステナブルの観点から画期的なイノベーションに挑戦している点です。研究を進めてきた「光電融合」を中核技術とした「IOWN(アイオン)」構想を打ち出しています。

 光電融合は電子によるデータの処理と光による通信伝送のそれぞれを担う機能を接合させるもので、ネットワークから端末、半導体などのデバイスすべてに導入し、従来にないサービスを実現させます。従来の100分の1の消費電力への効率化が目標となっています。これと再生可能エネルギーの利用拡大とをあわせて、目標に掲げている「2040年度温室効果ガス排出量実質ゼロ」を目指しています。実用化に向けた検証を進めており、資金調達の点でもNTTは国内最大となる総額3000億円のグリーンボンド(環境債)を発行しています。

 さらにソニーグループ(6758)や米インテルと共同で「IOWNグローバル・フォーラム」を設立するなど、国際標準化に向けて研究を進めています。

 IOWNは、世界共通となる半導体のイノベーションであり、成功すれば世界中のユーザーやベンダーが恩恵を被る、社会変革に向けての壮大な実験といえます。

KDDI、ソフトバンクの注目ポイント

 KDDIは、構造改革、法人事業、コンテンツ、株主還元の4つが注目点です。構造改革については、2022年3月の3G関連サービス終了に向けて、4Gへの利用者の移管、設備等残価資産の加速償却、引当金など900億円ほどの費用をかけて準備を進めています。3Gの終了は世界でも例のないことであり、この維持費用負担がなくなることから、2022年5月発表予定の次期3カ年中期目標に注目しています。

 コンテンツについても、コンテンツ・アプリケーションにAmazonプライムやNetflixがバンドルされた料金プランを打ち出すなど、5G時代に向けた差別化対応を進めている点が注目できます。

 継続的な増配を基本の考え方としている株主還元は、純負債が最も少なく資金的な余裕もあることから、野村證券では次期中期計画では毎年の自己株式取得を現在の1500億円から2000億円程度に増やすという前提を置いています。

 ソフトバンクは、足元を見るとコンシューマー事業の営業利益が減益となるなどやや苦戦しています。ただ中期的には、5G普及によるデータ無制限プランの拡大やPayPayの収益化が期待できます。

 株主還元は、3年間の利益に基づいて配当と機動的な自己株式取得を実施する予定で85%の総還元性向となります。配当に至るキャッシュフローの状況など事業環境の見極めが大切ですが、会社は配当性向の維持を公表しています。

※この記事は野村インベスター・リレーションズ株式会社が発行したアイアールmagazine 2022年 新春号の特集として掲載されたものです。

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