(野村證券エクイティ・リサーチ部 藤原悟史)

食料品 – リオープニング後は「値上げ」と「海外成長」に着目

 コロナ禍に翻弄された食料品業界では、リオープニングの波に乗る銘柄の見極めがポイント。商品価格の値上げというポジティブな材料もあるなかで食生活の変化への対応が迫られる業界のこれからを、藤原アナリストが解説する。

アナリスト注目銘柄

日清製粉グループ本社 (2002)
山崎製パン (2212)
アサヒグループホールディングス (2502)
味の素 (2802)

コロナ禍からのリオープニング正と負の影響の見極めが鍵

 日々の暮らしに密接に関わる食料品業界は、銘柄を聞けば商品が思い浮かぶ身近さが魅力です。

 一方で、基礎調味料を主業としながら加工食品、冷凍食品、飲料等を手がける味の素(2802)のように複数の事業セグメントを展開する企業が多く、その実態を捉えにくい側面もあります。

 さらには、同一商品であったとしても販売チャネルによって収益環境が違ったりもします。例えば飲料メーカーの主要なチャネルである自動販売機では、新型コロナウイルス感染拡大の影響からのリオープニング(経済活動の再開)の観点から見ても、住宅街とオフィス街では売上回復に大きな開きが生じます。このように食料品業界では、何事も一概に語れないわけです。

 こうした業界の特性を踏まえたうえで、まずは2020年後半から2021年前半にかけてのパフォーマンスを振り返ります。

 食料品業界は、特にコロナ禍に振り回された業界のひとつといえます。コロナ禍初期は巣ごもり需要で袋麺などが大きく売上を伸ばしたものの、収束に向かうなかでこれも剥落。株価の推移も歩調を合わせるような軌跡を描きました。

 リオープニングを迎えつつある現在も、コロナ下に好調だった家庭向けと不振だった業務向けの両方の事業を有する企業においては、プラス要素とマイナス要素が逆転するなど、値動きを見極めにくい局面が続いています。各企業は販売促進費の抑制や自販機のオペレーションコストの改善などに取り組んでいますが、食料品業界でリオープニングが本格的に反映されるのは、日清製粉グループ本社(2002)不二製油グループ本社(2607)など川上の原材料メーカーに限定されそうです。また、期待されている外食チャネルの回復も、コロナ禍前の水準に完全に戻ることはないと見ています。このように、企業業績を見ていく上では、リオープニングの正と負の両面の影響の見極めが鍵となっています。

 さらに、今後の動向を予想するために、国内需要の中長期的なトレンドも見ていきましょう。食料品業界で無視できない大きな潮流が、「簡便」「時短」「健康志向」という3つのニーズです。

 「簡便」「時短」ニーズに該当する商品は、冷凍食品や惣菜です。冷凍食品事業を展開する味の素は、このニーズに対応して事業を拡大させた典型例といえます。人口減少や世帯構造の変化に加えて、女性の社会進出等で以前から簡便・時短ニーズの拡大は指摘されていました。コロナ禍で在宅時間が伸びたのにもかかわらず、このニーズはむしろ拡大に拍車がかかっています。

 「健康志向」商品も拡大しています。高まる健康志向に訴求して付加価値を上げる動きは継続しており、機能性表示食品の承認件数も増えています。

商品価格の値上げラッシュで利益拡大が見込まれる

 次に2022年以降の動向を予想していきます。ここで注目点として数少ない共通テーマをあげるのならば、「値上げ」と「海外成長」の2つになります。

 「値上げ」については、価格上昇局面では利益の拡大が見込めることから投資家には好材料となります。世界的な需要回復に伴って原材料価格が高騰し、多くのメーカーが商品価格の値上げを実施・予定しています。直近では、大豆油、菜種油、パーム油が上昇し、業務用食用油は2021年だけで4回の値上げが実施されています。キユーピー(2809)がマヨネーズを値上げしたように、この動きはすでに家庭用品にも波及しています。また、2022年1月納品分から、リーマンショック前以来の上がり幅で小麦粉価格が上昇。これを受けて山崎製パン(2212)が値上げを予定しており、即席麺や菓子類の動向にも注視しています。

 2022年前半にかけては、さらに幅広いメーカーで値上げのアナウンスが増えるでしょう。一般に値上げの際には前期の原材料価格の値上がり分と今期に予想される値上げ分を相殺するため、2022年度に限って見れば増益を期待できる企業が増えるものと予想されます。

 次に2つ目の注目テーマの「海外成長」についてお話しします。すでに人口減少が始まり、世帯数の伸びも鈍化している日本において、他業界と同様に食料品業界も海外事業の成長が重要となります。

 この点において、食品メーカーにとってはコロナ禍はむしろポジティブに働きました。まず、単価が安い食料品は基本的に現地生産・現地販売であるため、物流混乱の影響は軽微でした。

 さらには、食文化の壁を越えるきっかけにもなりました。海外においてはニッチな日本食にとって、巣ごもりの在宅時間が「お試しユーザー」獲得の好機となったのです。例えば、中国でハウス食品グループ本社(2810)が展開する日本式のカレールーが徐々に認知度を上げています。もちろん、これを一過性にしないよう努力し、定着させられるかが鍵であることはいうまでもありません。

 海外展開に積極的な食品メーカーには、味の素、ハウス食品、キッコーマン(2801)ヤクルト本社(2267)などがあります。また、日本たばこ産業(2914)、アサヒグループホールディングス(2502)などは、海外M&Aが奏功した例として特筆されます。

 海外進出の際に大きな課題となるのがサステナビリティへの取り組みです。国内では株価に直結しにくいものの、ESG(環境・社会・ガバナンス)で先進的な海外企業と競合する日本企業には必須となります。パーム油、カカオ豆、コーヒー豆などの新興国が生産する原材料を用いる企業では、森林破壊防止や労働環境における人権問題の監視など、サプライチェーンの見える化が急務となっています。これらは現地でのモニタリングが必要となるため、温室効果ガス削減と同様に取り組みを長期的に見守る必要があります。

「日本の味」で海外に挑戦する食品メーカーに期待

 食料品業界には、海外に大きなチャンスがあります。海外市場に打って出る際にも、自動車メーカーのように技術面で差別化を狙うのではなく、「日本の食品メーカーによる『日本食』」というカテゴリーそのものが差別化要因となります。海外では情緒的な面を含む食文化の壁を打ち破るには時間がかかりますが、日本の食品メーカーが活躍できる土壌は広大です。個人投資家の皆さんにとっては、日本の味を武器にグローバルマーケットで勝負する企業を中長期的に応援するという視点を持つことで、投資生活をより楽しめるのではないでしょうか。

※この記事は野村インベスター・リレーションズ株式会社が発行したアイアールmagazine 2022年 新春号の特集として掲載されたものです。

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