米国FRBの金融緩和正常化と長期金利の行方

名目と実質とインフレの関係

 経済活動に限らず、投資を行う上でインフレ(物価上昇)を捉えることは重要です。また、法定通貨を発行する中央銀行の使命は、通貨価値の安定です。通貨価値の下落となるインフレを制御できない場合、経済に致命的な影響が及ぶことになります。

 金額ベースの名目と数量ベースの実質と物価変動を結び付けた「フィッシャー方程式

 名目金利 = 実質金利 + 期待インフレ率

がよく知られています。期待インフレ率が上昇すると、我々が普段指標として目にする名目金利の上昇が引き起こされます。

 名目の固定利付債の利回りと、物価連動債で示される実質利回りとの差から、「そのインフレ率が実現すれば、固定利付債と物価連動債から得られる利潤(利回り)が等しくなる『ブレークイーブン・インフレ率』」が計算されます。この値から、市場参加者の期待インフレ率を測り、参考にすることもあります。

予測機関の長期見通し比較

 調査機関の経済見通しから、将来の期待インフレ率を測る方法もあります。お金(マネー)の流れと実物経済は表裏一体であり、長期的にはその国の実力の伸び率へと収れんすると想定されます。

 我々投資家の関心事は、最終的に金利の先行きの変化にあり、利上げ局面においてはその着地水準にあります。予測地点が遠い先である程、予測は困難であり、予測機関によって分析結果は様々です。

  [2] 表は、米国と日本について、足元の値(直近値)や各機関の長期の見通しです。例えば、OMB(米行政管理予算局)は大統領予算案を策定し、政策効果を組み入れるのに対し、CBO(米議会予算局)は現状を前提とするために保守的に見通しが示されやすいといった違いがあります。

米国長期金利の行方は・・・

 次に[2]表で示した米国の長期予想の値を確認しましょう。期待インフレ率について、金利から見た③ブレークイーブン・インフレ率(以下、BEI)の期間構造を図[3]で見てみましょう。米国の物価連動債はCPI(消費者物価指数)に連動するよう設計されています。1年目のBEIは3.51%と、足元のインフレを織り込んでいるようですが、長期になるほど低下します。

 我々が一般的に目にするBEIは、その期間(7年なら7年間)にわたって期待される平均的な年間(年率)上昇率です。これをフォワード(先渡し)の計算方法で見ると、10年目の1年間のBEIは約1.9%と計算されます。

 世の中の物価の種類は様々ですが、米国の消費者段階の物価は、金利面の③BEIでみても、経済成長率の⑥期待インフレ率で見ても、長期的にはFRBの物価目標である2%に収れんするとの見方が一般的と言えるでしょう。

 一方、実質変化率を比較すると、金利から見た足元の②実質10年国債利回りはマイナスであり、⑤期待実質成長率(潜在成長率など)の2%前後を大きく下回っています。米国の成長率が10年平均でマイナス成長になるとは、常識的に想定できません。

 図[4]の通り、実質10年国債利回りが2%前後の水準から大きく低下し始めたのは、FRBがバランスシートを増加させて以降です。量的緩和が実質利回りを押し下げていると言えます。よって、逆の動きとなるQT(量的引き締め)開始の観測が強まると、実質金利の上昇により名目長期金利の上昇リスクがあるでしょう。

 FRBの金融政策正常化後の長期金利の水準を考えてみましょう。図表[2]の①の各予想を見ると、短期指標の政策金利は2.5%程度、10年国債利回りは3.5%弱であり、1%弱の差はターム(期間)プレミアム(注)とみられます。

 しかし、図[5]で示される通り、約半世紀の間、各景気循環の利上げの到達点を10年国債利回りが恒常的に上回ったことはありません。大よそ政策金利の利上げ到達水準が10年国債利回りの上昇の目途とみることもできます。今後、FRBの政策金利の均衡水準の見通しが維持されるかが注目されます。

(投資情報部 小髙 貴久)

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