ロシアのウクライナ侵攻を受けボラティリティーが高まる
ロシア軍がウクライナ全面侵攻へ
ロシアは2月24日、ウクライナの首都キエフなど複数の都市への空爆により、軍事施設を破壊するなど、軍事侵攻を開始しました。ロシア軍は制空権を確保したと伝えられるほか、ウクライナ東部のドネツク州、南部の港湾都市オデッサ、北部のベラルーシ国境から地上部隊を展開するなど全面的な侵攻に発展しています。
プーチン大統領は、昨年12月に欧米に対してウクライナのNATO(北大西洋条約機構)非加盟を要求しましたが、1月26日に米国とNATOがこれを拒否したことを受けて外交交渉を断念し、軍事的手段に転じたと見られます。同大統領は2月21日、ウクライナ領であるドネツク州とルガンスク州の親ロシア派勢力が実効支配する地域の独立を一方的に承認し、同地域で2014年から散発的に続いてきた紛争の停戦合意も有名無実化しました。
一方、米国を含むNATOはNATOに加盟していないウクライナに対して軍事的支援を行うものの、部隊を派遣して防衛する義務は負わないとする姿勢を貫いており、ロシア軍によるウクライナへの攻撃が続く中、事態は混迷の度合いが深まっています。
主要国は対ロシア経済制裁を強化
主権国家であるウクライナへ軍事侵攻したロシアに対し、直接的な軍事的手段で応じない欧米を始めとする主要国は、対ロシア経済制裁を先鋭化させています。
米国は2月22日にロシアのインフラ整備と軍需産業の資金調達を担うロシア国営の大手2行の米国での取引禁止のほか、3月1日以降に発行されるロシア政府債の流通市場での取引を禁止するという厳しい措置を打ち出しました。さらに、24日にはロシア最大手を含む金融機関を制裁対象に加え、ドル取引を制限し、主要企業による株式や債券の発行による資金調達を困難とするなど厳しい金融制裁を発表しました。英国は、ロシア高官や企業など100以上の個人・団体を制裁対象に追加し、ロシアの主要な金融機関の資産凍結や英国での資金調達停止を決定しました。EU(欧州連合)は域内におけるロシアの銀行の資産凍結・金融取引の停止に加え、各種の輸出規制を講じるとしています。エネルギー分野では、ドイツが2月22日にロシアからの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」のプロジェクト認可手続きの停止を決定したことに続き、米国が23日に同パイプラインの運営会社と会社役員に対する制裁を発表しています。
一方、ロシアは、2014年にウクライナ南部クリミア半島の併合を一方的に宣言して以来、欧米による制裁下にあり、経済への悪影響を減じるため、輸出における米ドル建て決済を減らすなど、脱ドル化を進めてきました。ルーブル建て国債保有額に占める海外投資家の比率は約2割(2021年12月末時点)にとどまるなど、経済制裁の効果は限定的なものにとどまるとの見方もあり、欧米を始め諸外国の対ロシア経済制裁により事態が収束に向かう見通しは立ちにくい状況にあります。
EU諸国は天然ガス・原油をロシアに依存
今後、主要国による対ロシア制裁強化が想定される中、ロシアによる報復措置への懸念も強まっています。欧州諸国は、天然ガスや原油など主要なエネルギー資源をロシアからのパイプラインを通じた輸入に大きく依存しています。欧州連合(EU)域外からの輸入では、天然ガスの5割弱、原油の約2割強をロシアが占めています。欧米との緊張の高まりから、ロシアからのエネルギー供給が縮小・停止される場合、欧州経済への影響は大きく、エネルギー価格の高騰が続く可能性にも注意が必要です。
ボラティリティーが高まる展開に
ロシアによるウクライナへの全面的な侵攻を受け、原油の供給不安から2月24日に北海ブレント原油先物は一時1バレル=105ドルを超え、2014年以来の高値を付けました。為替市場では、ロシアルーブルが対米ドルで史上最安値を更新し、ユーロが下げ幅を拡大しています。混迷度が深まる中、ボラティリティー(変動)が高まるものと懸念されます。
(投資情報部 野手 朋香)