新型コロナ禍の影響は各業界で様々

 筆者は紙パルプ・ガラス・化学など素材系企業を担当するが、新型コロナウイルス(以下コロナ)が流行したことで事業に短期的のみならず構造的な変化も出てきており、プラスマイナスあわせて紹介したい。

 紙パルプ業界ではウェットティッシュやマスクの需要が急増した。直接的にはコロナ対策だったが結果的にインフルエンザなど他の感染症の抑制にもつながっているようで、コロナが収束したあとも当面は高い需要が続く可能性があろう。一方で、印刷用紙の需要は激減した。在宅勤務の広がりでオフィスのペーパーレス化が一層進んでいる。コロナ禍が一巡すればイベントや旅行向けの需要は回復しようが、印刷用紙全体の需要がかつての水準まで戻ることは期待薄だろう。これを受けて製紙メーカーでは、印刷用紙の生産体制の見直しとともに、家庭紙や板紙・段ボールなど需要拡大が見込める分野へのシフトを一層進めるだろう。

 ガラス業界や化学業界では、世界的なロックダウン(外出機会の抑制)により一時は自動車や建築向けの部材の販売が急減したが、足元では回復傾向にある。一方で、在宅勤務の普及によりPC用モニターやTVの販売が好調であるため、ガラスやフィルムなどディスプレイ関連製品の販売は好調が続いている。

 ゴム関連では、タイヤ用や産業用途のゴム需要が一時大きく落ち込み、足元では回復傾向にある。一方で、日本ゼオンのラテックス(液状のゴム材料)やカネカのペースト塩ビなどは医療用ゴム手袋向けの需要が非常に強い。

 衣料用の繊維や化粧品向け材料の販売は低迷が続いている。外出機会が減少したことで洋服は販売不振が続いており、化粧をする機会も減っている。化粧品関連はスキンケア用途の保湿材料の需要は相対的に堅調なものの、マスクを着用する影響で顔料(色の原材料)などメイクアップ関連の需要の落ちこみが大きい。各国の渡航制限による国際旅客の減少で空港免税店での化粧品販売が落ちた影響も大きい。衣料用繊維や化粧品材料の本格回復は、コロナ禍が一巡してオフィスに人が戻ること、旅行客の回復などが必要だろう。

コロナ検査やワクチンに関連する事業

 コロナのワクチンの開発そのものでは欧米の企業がいち早く実用化に漕ぎ着けたが、日本企業も検査薬やCDMO(医薬品の受託開発生産)事業で存在感を示しており、そのいくつかを紹介したい。

 化学各社やガラス企業は事業ポートフォリオの一つとして医薬品などライフサイエンス事業を持つことが多い。デンカは国内におけるインフルエンザワクチンで長年の事業実績を持つが、インフルエンザ検査と同様の技術を用いてコロナを15分で診断する抗原迅速診断キットを2020年8月から販売を開始した。短期間で開発し市場投入できたのはこれまでの技術の蓄積があったからと思われ、21.3期の業績にも大きく寄与しそうである。また、今後は海外への販売も検討している模様である。一方で、インフルエンザ関連はワクチンの販売は好調だったが、流行自体が抑えられたため診断キットの販売は低調に推移している。

 東洋紡はPCR(ポリメラーゼ連鎖反応:DNA やRNA を増幅することで検出する手法)検査関連の酵素や試薬を販売しているが、コロナ感染の確定診断向けにこれらの販売が伸びており、生産能力を増強して供給対応している。

 CDMO事業も興味深い。世界的に医薬品の開発は低分子薬(化学合成で製造)からバイオ医薬品(分子量が大きく培養で製造する、DNA やRNA を取り扱う)にシフトしている。開発と生産で役割分担が進むなか、CDMO事業を行う日系メーカーもバイオ医薬品の開発で先行する欧米で積極的に投資してきたが、その事業の実態については情報が少なかった。コロナを機に、AGCやカネカなどの日系企業がワクチン候補の開発・生産で複数の案件に参画していることが明らかとなった(両社とも欧米の事業拠点は買収により取得し、その後増強)。今回のコロナ関連のワクチンで特徴的なのは、その多くがバイオ医薬品であるということ、開発の主体が専門領域に特化したバイオベンチャーであるということが挙げられる。バイオ医薬品の開発自体では日系企業は欧米企業に遅れているが、パートナーとして生産を担うCDMO 事業では日系企業も一定の存在感を示していることが確認された。

 以上は一部の例を挙げたに過ぎないが、今回のコロナではビジネスのみでなく人の行動様式など様々な変化が起きている。コロナ禍が一巡しても恒久的な変化として社会に定着するものもあると思われ、動向に注目して行きたい。

(河野 孝臣)

※野村週報2021年3月8日号「産業界」より

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