デジタル技術の活用により、コレクションの多様化が進んでいる。関連する市場の拡大に期待したい。

 人は昔からモノを集めてきた。例えば戦国大名は茶道具をコレクションしていた。コレクションには収集欲を満たしつつ、所有者の文化的素養や社会的地位を示す側面もある。近年では、趣味、見栄、オタク、文化的意味合いのあるものから、幼少時に好きだったモノをまとめ買いする「大人買い」まで、コレクションの多様化が進んでいる。フリマアプリを通じて簡単に売買できることから所有品の価値(換金性)が可視化されやすくなったことや、コロナ禍による巣籠もりも、コレクションの市場拡大を後押ししている。

 加えて、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の普及もコレクションの多様化を促進している。モノの背景にある意味やストーリーについて理解し合える人と価値観をSNS上で共有することで、コレクションはより楽しくなる。

 足元では、デジタルアイテムのコレクション市場が立ち上がりつつある。これまで、画像ファイルなどのデジタルアイテムはコピーが容易なため希少性に欠け、コレクション対象としての市場性は乏しかった。こうした中、ブロックチェーン技術を用いたNFT(非代替性トークン)が注目されている。NFTは、様々なデジタルアイテムの唯一性とその所有者を、衆人環視の手法により証明、特定する。

 NFTを活用すれば唯一無二なデジタルアイテムを持つことができるため、デジタルのコレクション市場が本格離陸する可能性が出てきた。そして、メタバース(インターネット上の仮想空間)という、いわばコレクションの新しい「展示」「表現」の場が登場しつつある点も注目される。

 デジタルアイテムに限らず、現実社会の商品やサービス等をNFTと紐づけ、価値を理解してくれるコレクターに保有してもらい、ブランド等がコレクターとコミュニティを醸成することも可能となろう。

 足元では、NFTへの注目度の高さから転売目的の投資家、投機家も増えている。先行事例を模倣したようなデジタルアイテムも散見される。しかし、長期ではコレクターがコレクションしたいと思える、共感を得るものだけが生き残ろう。

(フロンティア・リサーチ部 池内 一)

※2022年6月27日号 「新産業の潮流」より

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