2022年度の会社側の通期業績見通しが出そろうと同時に多くの企業から、新たな自社株買い決議(設定枠)が発表されています。2022年4月1日以降、6月末時点までの上場企業の設定枠の総額は4.2兆円と、スチュワードシップ/コーポレートガバナンス・コードが整備された2014~2015年度以降で、同時期としては過去最高となっています。本稿では、資本政策のお手本として対比されることの多い、米国企業の最新状況と比較することにより、今後の日本企業の資本政策の方向性を占ってみたいと思います。

 米国企業では、税引き後利益に対して配当が約30%、自社株買いで約50%、総還元性向が約80%という状態が永らく続いてきました。これが、近年では総還元性向100%超が常態化していました。この背景には、①長期に亘る低金利・株高により自己資本の重要性が薄れたと企業が判断した、②一部企業では株主からの圧力低減のために非公開化を模索した、ことなどが考えられます。

 これが2021年には総還元性向は84%となり、久しぶりに顕著に100%を下回りました。この理由については、今のところ推測の域を出ませんが、ここ数十年間で最もインフレ圧力・金利上昇圧力が高まっており、企業が自己資本を減らしてまで株主還元することに不安を感じ始めた、のではないかとみています。

 なお、コロナ禍中で米国企業の間では、分配のバランスをこれまでの株主重視から再検討すべきだとの機運が(2020年央ごろ)一時的に高まりました。ただ、その後のV字型の業績回復の過程で、多くの企業が配当・自社株買いを実額ベースで戻し/増やしており、分配の再考が議論になることは少なくなっています。

 一方、日本企業の2021年度の総還元性向は49%と3期ぶりに50%を下回りました(米国に倣って低下したということはさすがになさそうですが)。常々指摘されていることではありますが、企業業績が過去ピーク圏に達したいま、50%程度の総還元性向では持続的なROEの上昇は不可能です。当面は、金利上昇リスクなどにより総還元性向を抑え気味にせざるを得ない米国企業と、より一層の還元充実の必要性が高い日本企業とで、資本政策は異なった方向に向かうことになりそうです。

(注)S&P500、およびラッセル野村Large Capの税引利益に対する配当、自社株買い、内部留保の比率の推移。各々の比率の小数点以下は四捨五入してあるため、合計しても100%にならない場合がある。2019年度の日本の総還元性向(自社株買い+配当)が上昇しているのは、自社株買い、配当を企業が増やしていることと、税引利益が減益であったこと、などが要因。2021年の米国企業の総還元率が低水準にとどまった要因としては、コロナ禍で銀行の手元資金確保のために、配当と自社株買いが制限されていたことも指摘されている。
(出所)野村證券市場戦略リサーチ部などより野村證券投資情報部作成

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