日本は2050年のカーボンニュートラルを見据えて、30年度に温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減することを目指している。その中で特に家庭部門の削減目標は同66%と大きく、住宅の省エネ性能向上が求められる。

 これを受ける形で、22年6月に改正建築物省エネ法が公布された。これまで新築住宅は断熱性などの省エネ基準への適合が努力義務に留まっていたが、25年度までに適合が義務化される。

 住宅業界は事業者数が3.8万社以上あり、事業規模も多様である。設計力や施工実績、品質管理能力のばらつきも大きい。このため、これまで断熱性について画一的な規制は設定されていなかったが、法改正で住宅業界は 転換期を迎える。

 適合義務化によって、工務店などの小規模事業者は2つの課題に直面している。まず、断熱性の計算など、数値をベースにした省エネ基準に対応する知見が不足しており、各事業者は、その備えが急務である。

 次に、省エネ基準に適合するためのコスト増への対応である。断熱性能の高い建材の使用による費用増に加え、顧客への基準適合義務の説明、工期の長期化などで、住宅価格は上昇すると想定される。コスト削減や事業効率化、あるいは高価格帯へのシフトなど事業戦略の見直しが求められる。

 住宅建設において、営業、設計、資材調達、施工などの工程は相互に連動している。省エネ基準適合のためには、業務フロー全体で情報を共有し連動性を高めるIT化が効果的と考えられる。

 IT 化では、まず設計支援ソフトなど、工務店に不足している知見を補完するサービスの導入が必要である。省エネ基準適合が断熱性能や建設コストに与える影響を計算し、顧客に示すことなどが可能になろう。

 さらに、施工管理を支援するアプリケーションなどにより、個々の業務を効率化しつつ、業務フロー全体の連動性を高めることが重要である。工程間の無駄を削減することで、コスト削減を進めやすくなろう。

 ITサービス企業は特定の分野に特化しているケースが多いため、工務店はアプリケーションごとに契約しなければならず、負担が重い。中期的には、IT サービスと工務店のニーズをマッチングするプラットフォームの構築が期待される。

(フロンティア・リサーチ部 原田 静雄)

※野村週報 2022年8月8日号「新産業の潮流」より

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